生物物理
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トピックス
呼吸鎖酵素に隠された新規アロステリーが導く特異的抗菌薬の創出
西田 優也新谷 泰範
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2023 年 63 巻 5 号 p. 273-275

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Abstract

構造解析,ラマン分光,計算科学等を組み合わせ,呼吸鎖酵素の新規なアロステリーを解明した.“幅広い種で保存されたコア構造と真核生物が獲得した追加のサブユニットとの間にアロステリック阻害部位が存在する”という仮説をもとに,生物が普遍的に有する呼吸鎖酵素が標的でありながら,特異的抗菌薬の創出に成功した.

1.  はじめに

好気呼吸/呼吸鎖は電子伝達系とそれと共役するATP産生からなり,生物界に広く共有された機構である.生命の根幹にある重要な機構であるため,その機能障害は疾病の原因ともなる.電子伝達系の最後に働く呼吸鎖複合体IVは好気呼吸における酸素消費の実体であり,真核生物のミトコンドリアではシトクロムc酸化酵素(cytochrome c oxidase: mtCcO)がそれにあたる.我々は,mtCcOが呼吸鎖で律速段階となっていることに注目し,その活性制御と,それを生かした新規治療薬開発に取り組んでいる.

本トピックスではまず,我々が発見したmtCcOの新規アロステリーの作用機序解明について述べる.続いて,その普遍性と構造の違いを利用した特異性の高い抗菌薬開発について記し,最後にアロステリック抗菌薬における今後の展望について述べる.

2.  mtCcOの新規アロステリーの発見と作用機序解明

シトクロムc酸化活性を指標として,mtCcO精製標品を用いて20万化合物に対してハイスループットスクリーニングを行ったところ,複数のmtCcO活性化剤とmtCcO阻害剤を同定した.続いて,それらの作用機序を調べるためにX線結晶構造解析で複合体構造の決定を行った.ここでは阻害剤T113について述べる.Kinetics assayはT113がアロステリック阻害剤であることを示していたが,実際の結晶構造における結合部位も,基質である酸素やシトクロムcの結合部位や,電子やプロトンの通り道からも離れたところに結合しており,既知の基質結合部位ではない新規な部位であった(図1c1).しかし,その結晶構造からは阻害機構を説明できるような構造変化は見出されなかった.

図1

mtCcOの新規なアロステリック阻害機構の解明.(a)シミュレーション中のTM2,並びに,TM3の角度分布.“–T113条件”はmtCcOのみを用いた計算,“+T113条件”は阻害剤T113が結合したmtCcOを用いた計算,“+T113条件後T113を除去”は“+T113条件”の最終構造からT113を除いて再開した計算の結果を示す.(b)シミュレーション結果から取り出したスナップショット構造.化合物の結合によってTM2が屈曲し,タンパク質内部に押し込まれることが示唆された.(c)阻害機構の模式図(図はT113とmtCcOの複合体結晶構造).mtCcOへの阻害剤の結合は,TM2に続いて酸素経路に構造変化を引き起こし,ドミノ倒し的にBNCへの酸素の結合を阻害する.保存されたコアサブユニットを青色ヘリックスで示した.いずれも文献3より引用改編.

アロステリック機構において,その構造変化が結晶構造では確認できないことは珍しくない2).そこで,その手がかりを得るために分子動力学計算によるシミュレーションを行った.結果として,化合物と接する4本の膜貫通ヘリックスのうち,transmembrane helix 2(TM2)のみが化合物の結合により屈曲することが示唆された(図1a).そしてこの構造変化が,さらにTM2を挟んで反対にある酸素経路の狭窄を引き起こすことが示唆された(図1b, c).並行して行った共鳴ラマン分光実験では,mtCcOがもつハイスピンヘム/heme a3の配位状態を示すピークに注目した.heme a3はbinuclear center(BNC)の構成要素であり,ここに酸素分子が結合し水分子へと還元される.化合物存在下の実験結果は,heme a3から水分子が乖離した後,酸素分子の再結合が起きないことを示していた.

これらの結果は,化合物の結合により引き起こされた構造変化が酸素経路を狭窄し,BNCへの酸素の結合を阻害する可能性を示唆した.そこで,これを実験的に証明するために,stopped-flow法を用いてBNCへの酸素結合速度の測定を試みた.実験的には,嫌気条件下で還元型mtCcOと酸素のアナログとして一酸化炭素を混合し,一酸化炭素結合に伴うheme a3の吸光度変化を測定した.結果として,化合物の存在下では一酸化炭素の取り込み・結合速度が5倍以上低下することが示された.

以上より,mtCcOの新規アロステリック部位への阻害剤結合がドミノ倒し的に離れた酸素経路を狭窄し,活性部位であるBNCへの酸素の結合を阻害することを証明した3)

3.  アロステリーの保存性と抗菌薬応用

ミトコンドリアの祖先を辿ると,呼吸酵素をもつαプロテオバクテリアを古細菌の一種が取り込んだことであるとされる.実際に,13サブユニットからなるmtCcOに対して,コアとなるサブユニットはバクテリアにも広く保存されている(図1c図2a4).ここで注目したいのは,我々が発見したmtCcOのアロステリック阻害化合物の結合部位である.それは,保存されたコアサブユニットの表面にあり,さらに,真核生物が進化的に獲得したサブユニットに覆われていた.我々がmtCcOにおいて発見したアロステリーは,バクテリアでも保存されるヘリックスのドミノ倒しのような構造変化がその阻害機構であるため,基質やサブユニット構成が異なるバクテリア酵素でも同様のアロステリーが保存されているのではないか,と仮説を立てた.さらに,化合物が結合するタンパク質表面の局所構造の違いを利用することでバクテリア酵素特異的な阻害剤を合理的に探索することができるのではないかと考えた.

図2

呼吸酵素に保存されたアロステリック部位を利用した特異的抗菌薬の開発.(a)Neisseria NORの立体構造.mtCcOでは進化的に獲得したヘリックスで隠されていたアロステリック部位(赤丸)が,Neisseria NORでは露出していた.(b)阻害剤Q275は淋菌標準株(WHO F株)並びにセフトリアキソン耐性株(FC428株)に対して抗菌効果を示した.文献3より引用改編.

4.  バクテリア酵素特異的な阻害薬の探索

そこで,mtCcOの阻害剤の類縁化合物をin silicoに探索し,あるいは,in silico dockingを利用してmtCcOの阻害剤結合部位に結合する化合物を選出することで,化合物カスタムライブラリを作成した.これらの化合物はmtCcOの阻害剤結合部位に似た構造に結合することが期待される.つまり,mtCcO阻害剤だけでなく,コア構造を共通とする種々のバクテリア酵素の阻害剤も含まれることが期待される.

まず,大腸菌ユビキノール酸化酵素(E. coli ubiquinol oxidase: Eco UqO)を用いた.Eco UqO精製標品を用いてカスタムライブラリをスクリーニングしたところ,予想通り,mtCcO阻害剤だけでなく,mtCcOとEco UqOの両方を阻害する化合物や,Eco UqO特異的な阻害剤が得られた.Eco UqO特異的阻害剤N4は,kinetics assayではアロステリック阻害剤であることを示し,cryoEMを用いた複合体構造解析を用いて,その結合部位がmtCcOの阻害剤結合部位と同部位であることを証明した.最後に,アロステリーそのものが保存されているかどうかを調べた.酸素経路へのアミノ酸置換実験では,変異の導入により阻害剤効果が減弱した.さらに,mtCcOの場合と同様のstopped-flow実験でも,BNCへの酸素結合の遅延が化合物によって引き起こされることが示された.

以上より,バクテリア酵素にもmtCcOと同様のアロステリーが保存されており,その構造の違いを利用することでバクテリア酵素特異的な阻害剤を合理的に探索できることを示した3)

5.  特異的抗菌薬への応用

近年,急速な感染拡大により問題視されている薬剤耐性(AMR)菌の1つにNeisseria gonorrhoeae淋菌がある5).淋菌は極めてAMR獲得が速く,既に感染例の50%以上が薬剤耐性菌となっており,淋菌治療の最終手段であった抗生物質セフトリアキソンも含めてほぼ全ての治療薬に対するAMR株が既に世界的に拡大している.そこで,我々の仮説を展開し,淋菌特異的な新規抗菌薬への応用を目指し,Eco UqOから遠縁となる一酸化窒素還元酵素(Nitric oxide reductase: NOR)を標的として実験をすすめた(図2a).淋菌のNORは嫌気呼吸に働く酵素であるが,ヒト感染状況では,マクロファージが産生する一酸化窒素を還元・無毒化するため,淋菌感染症の新規抗菌薬の標的となる可能性がある6)

Eco UqOと同様にスクリーニングを行ったところ,期待通り,mtCcOともEco UqOとも交差しないNOR特異的なアロステリック阻害剤Q275を同定した.cryoEMを用いて得た複合体構造では,予想どおり,mtCcOのアロステリック部位と同じ部位にQ275は結合していた(未発表データ).最後に,スーパー耐性淋菌として感染拡大が始まっているセフトリアキソン耐性株に対して抗菌作用を調べたところ,Q275は十分に低い濃度で菌の増殖を抑制した(図2b).以上の結果は,Q275が淋菌感染症の新規治療薬への展開が可能であることを示した3)

6.  今後の展望

AMRは世界保健の一大脅威であり,人類の年間死亡者数は2050年には1000万人を超え,人類の死因のトップになると予想されている.この10年世界規模の対策が行われているが,既に有効な治療薬がなくなりつつある病原菌が複数存在する.我々が研究テーマとする呼吸鎖酵素は新たな抗菌薬の標的として注視されるようになっているが,生物種間の保存性が高いため,ヒトへの副作用の問題や耐性菌出現促進の危険性がある.ここで求められるのは,新規な作用機序に基づく特異性が高い抗菌薬の開発であり,新規なアロステリック抗菌薬はそれに合致する7)

我々はmtCcOの新規なアロステリーを発見し,その阻害機構を明らかにした.このアロステリック部位は,祖先型ではタンパク質表面に露出していたのに対して,ミトコンドリア型では進化の過程で獲得したサブユニットによって危険な部位が埋められた,と考察することもできる.我々はそれを利用することで,特異性の高いアロステリック抗菌薬を創出することができる可能性を示した.さらに,この戦略は,他の呼吸鎖酵素,あるいは,他の生命活動に必須な酵素にも適用可能と考える.生物界で広く重要な酵素では,そのコア構造は種間を超えて保存されるが,ヒトなどではコア構造の表面が進化の過程で獲得したサブユニットで覆われることがよく見られる8),9).ここから,コア構造とヒトだけが有するサブユニットとの境界に,我々が利用したような進化の過程で隠されたアロステリック阻害部位が遍在している可能性に考え至る.それらを利用することで,病原菌酵素特異的な阻害剤を探索し,副作用のない特異的な抗菌薬を合理的に量産できるかもしれない.

文献
Biographies

西田優也(にしだ ゆうや)

国立循環器病研究センター分子薬理部室長

新谷泰範(しんたに やすのり)

国立循環器病研究センター分子薬理部部長

 
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