生物物理
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巻頭言
出会いと感謝
渡邉 力也
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2024 年 64 巻 1 号 p. 1

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私たちは,この数年間,新型コロナウイルス感染症の流行により,社会の仕組み,科学技術の在り方も含めて劇的な変化を経験しました.特に,科学技術の分野では,急速なスピードで様々な新技術が開発・実用化され,ウイルス感染症に対する防御策を実現しつつあります.私もこれまでの研究活動を振り返る良い機会となり,基礎研究者として社会問題の解決に貢献できないか真剣に考えました.そして,研究仲間や同僚と連携して,1分子生物物理学で培った計測技術を基盤とし,ウイルス感染症の非増幅・迅速遺伝子検査法の開発などの応用研究に取り組んできました.

応用研究を通じて,様々な出会いがありました.大学や研究機関の研究者から,民間企業の技術者,大学病院の医師に至る多くの方々にご支援いただき,新技術の開発,装置への実装,そして,臨床検体を用いた実証実験に至るまで一貫した研究体制を構築することができました.私たちの非増幅・迅速遺伝子検査法「SATORI法」は日進月歩で進化しており,将来のパンデミックに対応するため,現在進行形で様々な要素技術が開発されています.今後は,民間企業との連携を通じて,医療だけでなく農業・畜産業などの多くの分野での実用化を目指すとともに,科学技術を通じて,生活のあらゆる局面でQuality of Lifeの向上に貢献できればうれしく思います.

また,新型コロナ禍の最中に,10年来の研究仲間とベンチャー企業を設立する機会にも恵まれました.良い意味で想定外の出来事ばかりでしたが,これまでのつながりを通じて,投資家のご支援をいただくとともに,新たな仲間を迎え入れることができ,順調なスタートを切っています.こちらの事業内容も1分子生物物理学で培った計測技術を応用したものを主軸としており,会社という社会の公器を通じて,研究成果の社会還元に挑戦していきたいと思います.

最近,改めて,出会いは研究人生を豊かにし,新しい可能性を切り拓く重要な鍵であることを実感しています.1分子生物物理学を教えてくださった恩師,同僚,そして,仲間との長いつながりに加えて,新しい出会いの瞬間を大切にし,今後も感謝の気持ちを忘れず,新たな研究の可能性を好奇心の赴く限り探求していきたいと考えています.

 
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