生物物理
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若手の会だより
若手の会だより
~第63回生物物理若手の会夏の学校開催報告~
高橋 大地
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2024 年 64 巻 1 号 p. 49-50

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2023年9月4日(月)~7日(木)にかけて,第63回生物物理若手の会夏の学校(以下「夏学」)が関西・九州支部主催で開催されました.今回は,第55回夏学の会場にも選ばれた1)びわ湖畔白浜荘を現地の会場としてハイブリッド形式で開催し,257名(現地148名,オンライン109名)という,オンライン開催であった第60回と第61回を含めても過去2番目に多い参加者を迎え入れることができました.本若手の会だよりでは,第63回夏学において校長を務めた筆者の立場より,本夏学の様子や開催に至るまでの経緯などを紹介させていただきます.読者の皆様に少しでも会の盛り上がりが伝わりますと幸いです.

第63回夏学「生物物理の新展開」

今年の夏学は「生物物理の新展開」というテーマのもとに開催いたしました.生物物理学はその長い歴史の中で多様な発展を遂げてきた学問です.第63回夏学では,現在もなお発展を続ける生物物理学の最先端に着目したプログラムを準備することで,参加者皆様が生物物理学における最先端の知見に幅広く触れ,今後の研究生活やキャリアにおける「新展開」を生むきっかけとすることを目指しました.

オープニングセミナーでは,神谷信夫先生(大阪公立大)をお招きし,学生時代から,米国科学誌Scienceの「2011年10大ブレイクスルー」に選出された光化学系IIの構造解析を含めた現在までのご自身の研究内容を交えながら,X線結晶構造解析の基礎や発展の歴史,現在もなお残る問題点などを様々な観点からご紹介いただきました.

2日目と4日目に開催したメインセミナーでは,柳澤実穂先生(東大),安永卓生先生(九工大),鳥谷部祥一先生(東北大),飯田渓太先生(阪大),磯村拓哉先生(理研)をお招きし,それぞれソフトマター物理学,構造生物学,非平衡物理学,応用数学,理論神経科学を軸とした生命現象理解についてお話しいただきました.3日目は興味のある分野を詳細に学べるように,分科会として2会場同時に講演を進めました.今年は沖村千夏先生(山口大),井上雅世先生(九工大),宮﨑牧人先生(京大),平岡裕章先生(京大),南後恵理子先生(東北大),車兪澈先生(JAMSTEC),新井宗仁先生(東大),小林穂高先生(東大)の計8名をお招きし,それぞれ細胞運動,理論生物学,構成的細胞生物学,トポロジカルデータ解析,動的構造解析,合成生物学,タンパク質フォールディング,細胞内1分子イメージングについてご講演いただきました.

クロージングセミナーでは,巨大分子の分子動力学シミュレーションで長年ご活躍される高田彰二先生(京大)に,ライフワークであるモータータンパク質駆動メカニズムのシミュレーションや,細菌細胞の全タンパク質シミュレーションといった分子動力学シミュレーションにおける新展開をお話しいただくという刺激的な内容で第63回夏学を締めくくりました.

今回お招きした先生方のご専門は非常に多様でありながら,いずれの先生方にも基礎から最先端の内容まで綿密にご紹介いただき,普段馴染みのない分野でも非常によく理解することができました.また,参加者からも「非常に勉強になった」「内容が濃く満足した」との声を多数いただき,参加後アンケートではほぼ全員が各講演に満足いただけたという結果でした.

講演のプログラムのみならず,参加者によるポスター発表も盛況を博しました.今年は過去最多となる66件の演題登録があり,発表会場は連日大いに盛り上がりました.第63回夏学では,参加者投票により島添將誠さん(遺伝研・M2),延山知弘さん(筑波大・PD),中山慎太郎さん(兵庫県立大・M2)の計3名にポスター賞を授与しました.

ハイブリッド開催に至った経緯と開催の結果

運営が発足して間もない頃,本夏学を全面現地開催とするかハイブリッド開催とするかは,スタッフ内でも意見が分かれていました.そんな中,1人でも多くの方に今回の夏学をお届けしたいという考えが私自身にあったことに加え,初回運営会議にて杉浦雅大第62回校長(名工大・2023年若手の会会長)より「今年もハイブリッド開催にした方がよい」とご助言いただいたこともあり,ハイブリッド開催に舵を切ることとしました.第63回夏学を開催した当時,新型コロナウイルス感染症は5類感染症へと移行し,世間的にも以前よりコロナウイルスの存在を気にしない風潮に移行しつつありました.そのため「現地開催だけでよいのでは?」というご意見も幾度かいただきました.しかし,今ではあの時ハイブリッド開催に踏み切って正解だったと考えています.109名にオンラインで参加いただけたのはもちろんのこと,博士論文や学務,研究室運営,子育てなどで忙しく現地参加が厳しい方々にも多くご参加いただけました.

また,昨年のハイブリッド開催の課題の1つでもあったオンライン参加者への配慮について,今年の夏学では対策を徹底しました.参加者連絡用に使ったチャットアプリSlackと各講演の配信に使ったZoomにオンラインスタッフを配備して,次のプログラムの予定や講演進捗状況のアナウンスを徹底しました.結果として,Zoomの同時アクセス数はスタッフの定点観測で50~86人と,最大でオンライン参加者数の約8割に上りました.また,オンラインでは乏しい参加者間交流の機会を少しでも補填するため,夏学の恒例行事であるスライド1枚の自己紹介企画「フラッシュトーク」をオンライン会場でも実施したほか,ポスター発表者にオンラインポスター発表のコアタイムを設け,懇親会会場も兼ねたGather.townに集まっていただきました.オンラインフラッシュトークはハイブリッド開催での初の試みだったことも影響してか,開催前の期待度は67%に留まったものの,荒谷剛史第59回校長(京大)の進行力も相まって100%の参加満足度を達成できました.また,Gather.townへの同時アクセス数は,平日夜の時間帯にも関わらず最大約40人に上り,連日夜通しの交流が成されました.結果として「オンラインでも十分満足できた」という声を多数いただき,参加後アンケートにて次回以降もハイブリッド開催を望む声は約7割にも上りました(N = 141).新型コロナウイルス感染症は以前より落ち着きつつあるものの,ハイブリッド開催の需要は今なおあることを改めて実感いたしました.

今回のハイブリッド開催で,音声トラブルの多さなど課題はまだまだ残りました.また,本投稿をこれからの弊会の指針とするつもりもありません.しかし,第63回夏学のハイブリッド開催が今後の研究会運営の何かの参考になれば幸いです.

現地での活気

今回は第62回夏学で現地開催を復活させて2年目となりました.第63回夏学でも前回に次ぎ,私が第59回にて初参加した頃と同等(むしろそれ以上)の活気が返ってきたと改めて感じました.各講演では毎回質疑のための長蛇の列が作られたのはもちろん,講演後もSlackなどで活発に質疑応答が行われました.講演時間外では研究やキャリアの話など,参加者間で多様な交流が成されました.前述したオンラインでの活気も相まって,第63回夏学では約99%の参加満足度を達成することができました(N = 141).この夏学が生物物理学に興味のある多くの若手の育成に貢献し,将来巻き起こるであろう生物物理学の更なる「新展開」の礎を少しでも築けたなら幸いです.

図1

第63回生物物理若手の会夏の学校の集合写真

最後に

本研究会は後援の日本生物物理学会をはじめ,多くの研究所,団体,企業,個人の皆様にご支援をいただきました2).この場をお借りして改めて御礼を申し上げます.また,本研究会は22名のスタッフによって運営されました2).今回のメンバーは「こんな夏学にしたい」「この点で運営に貢献できる」といった強い希望や指針を持った人が多く,それぞれの役割を完璧にこなすことで本研究会が成り立ちました.ぜひとも彼らの頑張りも称賛いただけますと幸いです.

次回第64回夏学は北海道支部を中心に開催される予定です.本稿を執筆している2023年9月現在からすでに面白そうな企画案がいくつも飛び交っており,これまで以上に盛りだくさんな夏学になることを期待しています.次回夏学の成功や,若手の会の更なる新展開にこれからもご注目いただけますと幸いです.

文献
 
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