生物物理
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総説
巨大ウイルスから発見された光でプロトンを輸送するヘリオロドプシン
細島 頌子角田 聡神取 秀樹
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2024 年 64 巻 3 号 p. 127-131

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Abstract

私たちは円石藻に感染する巨大ウイルスの持つヘリオロドプシンが光でプロトンを輸送するイオンチャネルであることを世界で初めて明らかにした.本稿ではヘリオロドプシンの発見から機能の解明,さらにイオン透過のメカニズムについて紹介する.円石藻ウイルスは光とヘリオロドプシンを利用してブルーム(白潮)の消失に関与している可能性も考えられ,ヘリオロドプシンの研究は地球環境の観点からも注目されている.

Translated Abstract

Rhodopsins convert light into signals and energy in animals and microbes. Heliorhodopsins (HeRs), a recently discovered new rhodopsin family, are widely present in archaea, bacteria, unicellular eukaryotes, and giant viruses, however their function remains unknown. Here we report that a viral HeR from marine giant virus (V2HeR3) is a light-activated proton transporter. Three environmental viral HeRs from the same group, as well as a more distantly related HeR exhibited similar ion transport activity. We here propose a proton transporting mechanism and physiological role of HeRs.

1.  光に応答する動物ロドプシンと微生物ロドプシン

ロドプシンは細菌からヒトに至るまで多くの生物に存在する光応答性タンパク質であり,最近ではウイルスのゲノム上にもロドプシンをコードする配列が見つかっている.ヒトの眼に存在するロドプシンは光の信号を視神経に伝達するため,視覚における重要な役割を担っている.このような動物の持つロドプシンは動物ロドプシンと呼ばれ,7回膜貫通構造の中心に光を吸収する分子としてレチナールが結合している.レチナールが光を吸収し,異性化するとロドプシンの構造が変化し,三量体Gタンパク質を活性化することで光の情報を伝達している.一方で藻類や細菌など微生物の持つロドプシンも7回膜貫通構造の中心にレチナールを結合するという共通した構造を持ち,微生物ロドプシンと呼ばれている.レチナールの光異性化によってロドプシンの構造が変化し,光センサー機能やイオン輸送,酵素反応など様々な機能を発揮することが知られている1)

2000年代以降,微生物ロドプシンをはじめとする光応答性タンパク質を利用して生体内反応を光で制御するオプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれる手法が発展した.たとえば2003年に緑藻類から発見された微生物ロドプシンの1種であるチャネルロドプシン2(ChR2)2)は,光を吸収することでその分子内のチャネルゲートが開き,非選択的に陽イオンを運ぶイオンチャネルである(図1).ChR2を発現させた神経細胞に光を照射すると,光によってChR2がオープン構造を取り,プロトンやナトリウムイオンといった陽イオンが細胞内に流れ込む.それによって膜電位変化(脱分極)が生じ,神経細胞に存在する電位依存性ナトリウムチャネルが活性化されることで,神経活動の興奮をミリ秒スケールで引き起こす3),4).プロモーターなどを用いて遺伝子工学的に制御することで特定の細胞のみに微生物ロドプシンを発現させ,さらに光の照射範囲も任意に設定することで,標的細胞の神経活動を特異的に制御することができる.このためオプトジェネティクスは神経科学の分野でとりわけ大きく発展した.

図1

イオン輸送性微生物ロドプシン.輸送される主なイオン種と向きの模式図を示した.

昨今では光受容ナトリウムチャネル5)やカリウムチャネル6),陰イオンチャネル7)など様々なイオン選択性を持つイオンチャネルが自然界から次々に発見されており,また能動輸送を行うプロトンポンプ8)やナトリウムポンプ9),クロライドポンプ10)などもオプトジェネティクスツールとして用いられている.応答する波長は基本的に可視光域に限定されているが,430 nm程度の短波長によく応答するロドプシンもあれば11),590 nm程度の長波長に応答するロドプシンも存在する12).研究目的に適したロドプシンの選択が可能となっている.さらにロドプシンが活性化されるのに必要な最小の光強度は分子によって異なり,私たちは弱光でも活性化され,イオンを通すロドプシン(GtCCR4)を発見し,その特性を活かして視覚再生に向けた取り組みを進めている13).現在,微生物ロドプシンは神経科学の分野に留まらず,生命現象をコントロールするツールとして幅広く用いられており,視覚再生以外にもアルツハイマー病やてんかん,パーキンソン病,心不全などへの治療に向けた脳や心筋への操作,聴覚の補助など医療応用に向けた挑戦的な試みも数多く知られている.オプトジェネティクスは分野を越えた次世代の革新的な技術として期待されている14),15)

2.  ヘリオロドプシンの発見

これまでロドプシンは動物ロドプシンと微生物ロドプシンの2つのグループに分類されていた.イスラエル工科大学のベジャ教授らがガリラヤ湖に生息する微生物のメタゲノム解析を行ったところ,ロドプシンの特徴である7回膜貫通ヘリックス構造とレチナールの結合部位を持つ遺伝子を発見した.しかし従来のロドプシンとはアミノ酸配列が大きく異なり,新たなグループである可能性が示唆された.そこで名工大の神取研で分子特性が解析され,新しいロドプシンが発見された16).新たなロドプシンは光の源である“太陽(ギリシャ語でヘリオ)”に因み“ヘリオロドプシン(Heliorhodopsin, HeR)”と名付けられた.ヘリオロドプシンの発見は2018年であるが,その翌年には東大・濡木研により結晶構造も決定された17).動物ロドプシンと微生物ロドプシンは似た構造を持つが,脊椎動物の持つ視覚ロドプシンは光を吸収するとレチナールが解離し,レチナールが再結合するまで次の反応が起きない.一方で微生物ロドプシンはレチナールが解離しないため,光による反応が繰り返すという大きな違いがある.ヘリオロドプシンの光反応は微生物ロドプシンと同じようにサイクル反応を示すことが分かった.また驚くべきことにヘリオロドプシンの膜配向が動物ロドプシンや微生物ロドプシンのものとは異なることが判明した(図2).これまで「すべてのロドプシンのN末端は細胞外,C末端は細胞内に存在する」と考えられていたが,私たちは免疫組織化学染色法を用いてヘリオロドプシンの膜配向が反転していることを実証し,ロドプシン界の常識を覆す幸運に恵まれた17).しかし残念なことにヘリオロドプシンから光センサーやイオン輸送などの機能を見出すことはできず,ヘリオロドプシンの機能や生理的な役割は謎のままであった.

図2

3つのロドプシンのグループ.ヘリオロドプシンの膜配向は微生物ロドプシン・動物ロドプシンの膜配向とは反転している.

3.  光でプロトンを輸送するヘリオロドプシン

ヘリオロドプシンの機能は全くの未知であったが,ヘリオロドプシンは古細菌や真正細菌,藻類などの真核生物や巨大ウイルスなど,様々な生物種に含まれることが分かり,その数は現段階で3000種を越えている.この中からいくつかのヘリオロドプシンを選び,分光学的な特徴を調べたところ,円石藻に感染する巨大ウイルスが持つヘリオロドプシンから他のヘリオロドプシンにはない特徴が見られた.私たちはこのヘリオロドプシンをV2HeR3と名付けた.微生物ロドプシンではall-trans型のレチナールが光を吸収し,13-cis型に異性化反応が起こり,プロトン移動反応といった光反応過程で生じる様々な光反応中間体を経て,all-trans型のレチナールへと熱異性化する.精製したV2HeR3の最大吸収波長は500 nmであり,光反応時間は他のヘリオロドプシンに比べて速く,またシッフ塩基からのプロトン移動によって生成するM中間体を蓄積するという特徴があった.これはイオン輸送型の微生物ロドプシンに見られる特徴でもある.そこで私たちは哺乳類細胞にV2HeR3を発現させ,whole-cell patch clamp法を用いてイオン輸送性を調べた18).その結果,V2HeR3は光依存的にイオンを輸送することが判明した.ヘリオロドプシンの発見から4年,ついにヘリオロドプシンの機能が明らかになったのである19)

whole-cell patch clamp法では,細胞膜に存在するイオン輸送体を介したイオンの動きを電流として測定する.細胞内外のイオン組成,細胞の膜電位を変化させることが可能であり,さらに時間分解能がサブミリ秒程度であるため,イオン輸送体の研究において強力な手法である.私たちは様々な溶液条件下で測定を行い,V2HeR3が光依存的にプロトンを輸送するチャネルであることを突き止めた(図3A).V2HeR3を発現させた哺乳類細胞に光を照射すると,一過性のピーク電流が見られ,ピーク電流はすぐに大きく減衰するが持続した電流が生じる(I2).この光照射中に持続する電流はチャネルを流れる電流成分を示している.

図3

(A)V2HeR3を発現させた細胞に505 nmの光を照射すると,一過性の大きな内向き電流(I0)が生じ(左上),その後一定の電流(I2,定常電流)が現れた(右上).I2は膜電位に依存し,+40 mVの反転電位(Erev)を示した(左下).各種細胞外イオン条件下における反転電位(A右下)からプロトン選択性が高いことが分かる.(B)イオン透過経路のモデル図.E191はイオンチャネルのゲートを形成し,PAG(Proton Accepting Group)であるE205,E215はイオン輸送の向きに関与する19)

しかし細胞内外のイオン濃度の勾配のみに依存するチャネルであれば,細胞内外のイオン組成が同じ場合,I-Vプロット上の反転電位は0 mVを示す.V2HeR3の場合は反転電位が+40 mVと大きくポジティブ側にシフトしている(図3A左下).そのためV2HeR3は,微生物ロドプシンの代表的な陽イオンチャネルであるChR2と同様に細胞内へイオンを輸送する働きが強いのではないかと考えられる20).またV2HeR3の反転電位は細胞外に存在する一価陰イオンの影響を受けるが,一方で細胞内の一価陰イオンには影響を受けない.このため陰イオンは輸送していないと推察される.しかし細胞外に一価陰イオンが存在すると輸送量に減少が見られ,何らかの制御機構が存在すると考えられるが,現段階ではその機構も生理的な役割も不明である(図3B).

さらにV2HeR3をラットの大脳皮質初代培養細胞に発現させて光を照射したところ,神経細胞が脱分極し活動電位が見られた.これにより円石藻ウイルスのヘリオロドプシンであるV2HeR3は細胞膜を脱分極させるのに充分なプロトン輸送能を持っていることが分かった.円石藻ウイルスが宿主である円石藻の細胞膜にV2HeR3を発現させた場合も,宿主細胞の膜電位を変化させることができると予想される.

4.  V2HeR3のイオン輸送機構

V2HeR3は他のイオン輸送能を持つ微生物ロドプシンと同様に分子内にイオン透過経路が存在すると考えられる.そこで私たちはV2HeR3のイオン輸送経路の解明を目指した.一般的に陽イオンを輸送する微生物ロドプシンではグルタミン酸(E)やアスパラギン酸(D)がイオン輸送に関連があるとされている.そのためグルタミン酸からグルタミン(Q),アスパラギン酸からアスパラギン(N)といった電荷をなくしたアミノ酸に置換し,イオン輸送への影響を調べるといった研究が多くなされている21).V2HeR3は合計13個のグルタミン酸とアスパラギン酸を持っている.そのうち膜貫通領域に存在する10個のグルタミン酸・アスパラギン酸をグルタミン・アスパラギンに置換し,電気生理学的手法を用いてイオン輸送能を調べた.その結果,E105Q,E191Q,E205Q,E215Q,E236Q変異体でイオン輸送に変化が見られた19)

E105はヘリオロドプシンでは広く保存されたグルタミン酸であり,レチナールのシッフ塩基のカウンターイオンとして知られている.V2HeR3のE105Q変異体の精製タンパク質ではレチナールの結合が確認できなかった.E191Qではレチナールの結合は確認されたが,イオン輸送能を持たないことが分かった.さらにE205Q,E215Q変異体では細胞外側へのイオン輸送が強くなり,外向きプロトンポンプのような一方向性のイオン輸送を示した.以上の実験結果からおそらくV2HeR3が光を吸収し構造が変化すると,E191とその他のアミノ酸残基によって構成されるチャネルゲートが開き,プロトンが透過する.E205やE215はV2HeR3の細胞内側の出口付近に存在し,これらはイオン輸送の向きに関与していると考えられる(図3B).またE236Q変異体は,内向きのイオン輸送が強くなっており,反転電位のシフトが見られた.E236は細胞外側に位置しており,このアミノ酸残基もイオン輸送の向きに影響を与えていると考えられる.

5.  ウイルスにおけるヘリオロドプシンの役割

円石藻や珪藻は光合成によって海洋中の二酸化炭素(CO2)を有機物に固定し,その一部が食物連鎖やウイルス感染による崩壊によって表層から深層へと移動することで表層のCO2濃度を低下させ,大気中のCO2を海中へ吸収しやすくさせる.これらは海洋における炭素循環の重要な過程である.一方で円石藻の爆発的な増殖は白潮(ブルーム)と呼ばれる現象を引き起こし,生態系に大きな影響を与えてしまう.近年,ブルームの消失には円石藻ウイルスの感染が関係していること,円石藻ウイルスの円石藻への吸着に光が関係していることが報告されているが22),そのメカニズムは分かっていない.V2HeR3が宿主である円石藻の持つ防御機構の突破や過剰感染の防止に関連している可能性もある.ヘリオロドプシンの生態内における生理的役割の解明は残された課題である(図4).

図4

生態系での円石藻と円石藻ウイルスの関連についてのイメージ図.本研究は円石藻を用いて行ったものではないが,V2HeR3が円石藻に発現すれば光でイオン輸送が起こり,脱分極することで円石藻に大きな影響を与えると予測される.イオンを輸送しないヘリオロドプシンを含め,生理的役割が注目されている.

また円石藻Emiliania huxleyiに感染する円石藻ウイルスEhV-202は3つのヘリオロドプシン遺伝子を持っており,そのうちの1つであるV2HeR3のみがイオン輸送能を示した.EhV-202の近縁である,EhV-201は2つのヘリオロドプシンを持っているが,両方ともイオン輸送能は見られなかった.V2HeR3のイオン輸送に重要なアミノ酸残基5つに着目し,これらを保持しているヘリオロドプシンを探したところ,新たに4つのヘリオロドプシンがイオン輸送能を持つことが明らかになった.ヘリオロドプシンは現在,3000種存在するとされているが,イオン輸送能が判明したのはたった5つのヘリオロドプシンである.ヘリオロドプシンの多くはイオン輸送能を持たず,他の機能を持つと予想されている.私たちが光でプロトンを輸送するヘリオロドプシンを報告した後,立て続けにヘリオロドプシンの機能に関する研究が報告された.これらの研究ではヘリオロドプシンがグルタミン合成やDNA修復に関連している可能性を示している23),24).微生物ロドプシンの研究は光駆動プロトンポンプ(バクテリオロドプシン)の発見からスタートした.その後,多種多様な機能を示す微生物ロドプシンが発見され,オプトジェネティクスという分野を生み出した.今では基礎研究のみならず,医療応用に向けた取り組みも盛んに行われ,未来への希望の光となっている.微生物ロドプシンと同様に今後は様々な機能を持ったヘリオロドプシンが登場し,挑戦的な研究へと繋がっていくことだろう.

謝辞

ヘリオロドプシンの機能解明は,イスラエル工科大学Oded Béjà教授,Andrey Rozenberg博士,Alina Pushkarev博士,名古屋工業大学 井上圭一准教授(当時),片山耕大准教授,今野雅恵博士(当時),吉住玲博士,水鳥律さん,重村峻太さん(当時)との共同研究によって達成されました.研究に携わったすべての皆様にこの場を借りて御礼申し上げます.

文献
Biographies

細島頌子(ほそしま しょうこ)

名古屋工業大学大学院特任助教

角田 聡(つのだ さとし)

名古屋工業大学大学院特任准教授

神取秀樹(かんどり ひでき)

名古屋工業大学大学院特別教授

 
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