生物物理
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巻頭言
「生物物理」と「バイオメカニクス」
中垣 俊之
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2024 年 64 巻 5 号 p. 231

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私の初めての学会発表は第25回生物物理学会年会(徳島大学)だった.その頃は毎年生物物理学会年会で発表することが励みであった.私は粘菌モジホコリ変形体の収縮リズムの細胞内パターン形成を研究していたので,細胞運動,生体リズム,非平衡などといった名前のセッションで発表していた.私は比較的目に見えるスケールの生物の動きや形に興味を覚えていたので,物理学がどのようにそれらを解明するのかが知りたくて,関連のありそうな講演を探しては聞いて回っていた.タンパク質や遺伝子のミクロな話が,細胞や個体の運動や行動に結びつくような話には,いたく感心した.様々な方法論があって理解が追いつかないことも多かったが,知的好奇心は大いに刺激された.たくさんある講演会場の中で次はどの会場に行こうかと廊下の長椅子に座って年会予稿集を繰っていると,正面で悠然とタバコを燻らしていた老老の氏が小谷正雄(本学会初代会長)という名札をつけているのを発見して思わず「おっ」と思ったりした.

修士課程修了後しばらく製薬会社で働いていた時には,製薬の現場でももっと物理や数学を使う余地があると思った.その後,会社をやめて博士課程に入学し,もう一度生物物理を勉強し直した.その後,いくつもの研究室にお世話になりながら徐々に比較的マクロな生理学に惹かれていった.50歳をすぎる頃に機械工学にたどり着いて今はバイオメカニクスに傾注している.機能システムの成り立ちを追求するという視点が魅力である.

当雑誌「生物物理」の古い号を見返してみると,工学との接点もその出自からすでに強かったことがわかる.1962年には南雲仁一,鈴木良次,戸川達男らの「生物工学」という興味深い記事がある.私は久しく粘菌の循環系(輸送ネットワーク)の研究をしているが,血管系のバイオメカニクス(ヘモダイナミクス)の古い論文のお世話になってきた.1963年4号には「生物×物理の可能性」についての特集があり,そこにバイオメカニクスやバイオニクスの観点も含まれている.

今回古い号を見返す中で,思わず読み耽った特集がいくつもあった.1970年「生物物理における数学的方法」,1971年「分子から下等生物までの運動,行動」,1973年「生物におけるパターン形成」など.バイオメカニクスも,マクロな生理学もまだまだ発展する余地が大いにあると思った.

 
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