2024 年 64 巻 5 号 p. 247-250
クラスリン依存性エンドサイトーシスを制御する分子複合体の構築原理を理解するため,エンドサイトーシス進行過程中のタンパク質構造変化を細胞膜上で解析可能な光電子相関顕微鏡法を開発した.蛍光共鳴エネルギー移動測定と金属レプリカ電子顕微鏡観察とを組み合わせた新規相関顕微鏡法と,その適用例について概説する.

Clathrin-mediated endocytosis is the primary internalization mechanism of mammalian cells. Conformational changes in proteins regulate this process. To investigate conformational changes during endocytosis, we develop a new correlative lifetime-based fluorescence resonance energy transfer (FRET) and platinum replica transmission electron microscopy method named FRET-CLEM. Here, FRET-based atomic distances can be mapped directly to individual clathrin-coated structures visualized by electron microscopy at the plasma membrane. Using this method, we reveal novel conformational changes in clathrin light chain, which regulate curvature and endocytosis in living mammalian cells. FRET-CLEM will help develop a complete mechanistic model of endocytosis.
細胞は脂質二重膜で構成される細胞膜に覆われている.細胞内外でタンパク質などの物質のやり取りを行うため,細胞膜を通過させるための分子機構を有する.そのうちの1つがエンドサイトーシスである.エンドサイトーシスは,細胞外や細胞膜上の物質を輸送小胞内に閉じ込め,細胞内へ取り込む機構である.クラスリン依存性エンドサイトーシスは,真核細胞における主要な膜取り込み様式であり,栄養の取り込み,シグナル伝達,膜分子のリサイクリングなど,多くの細胞機能に関わる1).この過程に関わる50種類以上のタンパク質が同定されている.さらに,多くのタンパク質や複合体の立体構造モデルも得られている.しかし,細胞内でこれらの分子がいつ,どこで,どのように集合・解離し,積み荷や環境変化に応じた取り込みを実行しているかは未だに不明な点が多い.
細胞内における分子複合体の構造・動態に関する疑問は,エンドサイトーシスに限定されたものではなく,細胞内の多くの分子複合体研究に共通している.細胞内における分子複合体の詳細な分子モデルを構築し,その動作原理を理解するためには,構成タンパク質のナノスケールでの局在,分子数,集積・解離動態,分子間相互作用,および立体構造を決定する必要がある.
最近筆者らは,クラスリン依存性エンドサイトーシス進行過程における,タンパク質の構造変化を細胞膜上で解析できる新規イメージング技術を開発した2).本稿では,そのイメージング技術と,エンドサイトーシスを制御するクラスリン軽鎖の新規構造変化を明らかにした研究について概説する.
クラスリン依存性エンドサイトーシスは,1)アダプタータンパク質を介したクラスリン,膜分子の細胞膜上における集積,2)クラスリン被覆の拡張,湾曲,3)被覆小胞の細胞膜からの切断,4)脱被覆,という過程を経る.この分子過程の構造的基盤であるクラスリンは細胞膜と直接結合しないため,被覆形成にはAP2などのアダプタータンパク質との結合が重要である3).クラスリン被覆は,一般的に3本のクラスリン重鎖と3本のクラスリン軽鎖から形成されるクラスリントリスケリオン(三脚巴)が重合することで形成される3)(図1a, b).重鎖は被覆の骨組みとして機能する.精製したトリスケリオンは溶液中で重合し,サッカーボール様のクラスリンケージを形成するが,軽鎖はこの重合を調整する.精製トリスケリオンの結晶構造解析により軽鎖の2つの構造モデルが報告されている4)(図1a).Extended formでは,N末端領域が重鎖の膝領域に結合することで,膝領域の構造自由度を低下させ,重合可能な角度を取れなくする.一方で,Bent formに構造変化し,N末端領域を介した結合が外れると,重鎖は重合可能な構造をとることができるようになる.したがって,クラスリン軽鎖の構造変化は溶液中でのトリスケリオンの重合に重要である.

a.クラスリントリスケリオン構造モデル.b,c.HeLa細胞細胞膜(細胞質側)の金属レプリカ電子顕微鏡画像.4つのトリスケリオンの予想される局在を被覆上に重ね合わせた(b).文献2の図を一部改変.
しかし,細胞内では,トリスケリオンは細胞膜上,かつ多くの分子が存在する環境で重合する.さらに,被覆の曲率や形状は様々であり(図1c),細胞内での軽鎖の構造やその変化,そしてそれらの被覆形成,拡張,湾曲への影響については不明な点が多い.
様々なイメージング方法は,それぞれ異なる特性を有している.例えば蛍光イメージングは,高コントラストに標識分子を観察できるが,それらの背景に存在する標識されていない細胞構造は観察できない.一方で,電子顕微鏡法は高解像度で細胞構造を観察できるが,分子を特異的に観察することは難しい.そこで,複数のイメージング方法を組み合わせて,それぞれの方法に存在する技術的および原理的ギャップを補完して解析する方法を一般的に相関顕微鏡法と呼ぶ5).特に,光学顕微鏡と電子顕微鏡を組み合わせた方法は光電子相関顕微鏡法(Correlative Light and Electron Microscopy; CLEM)と呼ばれる.CLEMは,電子顕微鏡により可視化されたナノスケールの細胞構造に,蛍光シグナルを直接対応付けることができる.そのため,1)電子顕微鏡で観察する領域の同定,2)電子顕微鏡画像上への分子局在のマッピング,3)蛍光由来の情報の細胞構造への対応付け,などの用途で使用される6).
クラスリン被覆構造の構築原理を理解するためには,クラスリン軽鎖を含むタンパク質の構造変化を細胞内で計測する必要がある.超解像イメージングを用いることで,形態的に定義されるエンドサイトーシスの異なる成熟段階において,タンパク質の局在変化を20-30 nmのスケールで解析できるようになった7).しかし,超解像イメージングの空間分解能ではタンパク質の構造変化を測定することはできない.
一方で,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は,タンパク質内構造変化およびタンパク質間相互作用を計測できる8).FRET効率は,ドナー・アクセプター間の距離により変化するため,FRET効率の変化から距離の変化を推定できる.蛍光タンパク質ペアを用いた場合,10 nm以下程度の距離でFRETがおこる.一般的に,FRET効率は,全視野顕微鏡や共焦点顕微鏡などを用いて,蛍光強度や蛍光寿命測定から推定される9).しかし,回折限界で制限される空間分解能では,100-200 nm程度の大きさのクラスリン被覆構造の微細構造を観察することはできない.したがって,FRETイメージングのみでは,FRETから得られる距離の情報を,成長および湾曲するクラスリン被覆構造の成熟段階に関連付けて解析することができない.
この問題点を克服するために,蛍光寿命イメージング顕微鏡法を用いたFRET測定と金属レプリカ透過電子顕微鏡とを組み合わせた新規相関顕微鏡法を確立し,FRET-CLEMと名付けた2)(図2).FRET測定と電子顕微鏡観察を同一細胞膜領域に対して行うことで,FRET画像内の単一蛍光スポットを電子顕微鏡で可視化した単一クラスリン被覆構造に対応付けられる.電子顕微鏡の空間分解能は高いため,FRETシグナルをクラスリン被覆の構造的特徴に従って分類することができる.したがって,FRET-CLEMを用いることで,哺乳類細胞の細胞膜上で,形態学的定義されるエンドサイトーシスの発達段階において,FRETに基づくナノメートルスケールの距離情報を,単一クラスリン被覆構造分解能で解析することができるようになった.

a.FRET-CLEM法の手順.FRETイメージング後に金属レプリカを作成するため,まずアンルーフィング10)を行い細胞膜の内面を露出させる.同時に化学固定を行う.次に,アンルーフ膜をFRETイメージングする.その後,臨界点乾燥し,金属レプリカを作成する.そして,レプリカを透過電子顕微鏡で観察し,2つの画像を重ね合わせる.b.EGFPを付加したクラスリン軽鎖を発現したHeLa細胞のFRET-CLEM画像.
FRET-CLEMを用いて,クラスリン軽鎖の細胞膜上での構造変化とその役割について調べた.FRETドナーであるEGFPをN末端に付加した軽鎖と,アクセプターである非蛍光タンパク質(ShadowY11))をC末端に付加した軽鎖との間の分子間FRETを用いて,CLEM解析を行った(図3).単一クラスリン被覆由来の蛍光寿命を,電子顕微鏡画像を基にその曲率に応じて分類し,比較したところ,被覆が湾曲するに従ってFRET効率が低下した.一方でN末端欠損変異体(EGFP-CLCΔN)とCLC-ShadowYのペアでは,FRET効率の低下は起こらなかった.これらの結果は被覆の成熟過程中に軽鎖のN末端位置がC末端に対して相対的に変化していることを示唆する.さらに,変異体の測定から,このFRET効率変化は既存のin vitro構造モデルを基にした構造変化のみでは説明できないことが明らかになった.

a.形態的に分類したクラスリン被覆のCLEM画像例.b.クラスリン軽鎖(CLC)のN,C 末端に付加した蛍光タンパク質間FRETのCLEM解析.文献2の図を一部改変.
そこで,細胞膜上でのクラスリン軽鎖の平均構造モデルを調べるため,EGFPと細胞膜に取り込まれるdipicrylamine(DPA)間のFRETを利用した12).このペアのFRET効率は,EGFPの細胞膜からの距離を反映する.N末端,C末端,そしてN末端欠損変異体のN末端に付加したEGFPとDPA間の,細胞膜全体での平均FRET効率を比較した(図4a).FRET効率の違いから,細胞膜上でのクラスリン軽鎖の平均構造モデルが予測できた(図4b).このモデルでは,N末端は重鎖近位脚領域よりも細胞質側に位置しており,これまで報告されてきた構造モデル(図1a)とは異なっていた.

次に,被覆成熟過程における構造変化を調べるため,EGFP-DPA FRETを用いたCLEM解析を行った.クラスリン軽鎖N末端に付加したEGFPとDPAのFRET効率は,より湾曲した成熟したクラスリン被覆で低くなった(図4c).したがって,蛍光タンパク質間FRET-CLEM解析の結果と合わせて,クラスリン被覆が発達していく過程で,軽鎖N末端領域は細胞質側に移行することが明らかになった(図4d).
最後に,化学誘導二量体形成法を用いて,この軽鎖の構造変化を阻害するプローブを作成した.具体的には,軽鎖のN末端に付加したFKBPと,細胞膜に局在するFRBとの結合を,小分子化合物依存的に誘導し13),N末端の細胞膜に対する位置を固定した.構造変化を阻害したとき,被覆の面積は大きくなり,またエンドサイトーシスが阻害された.これらの結果から,FRET-CLEMによって同定したクラスリン軽鎖の構造変化は,哺乳類細胞におけるクラスリン被覆の曲率獲得,またクラスリン依存性エンドサイトーシスの重要な分子機構であることが示された.
FRETイメージングを電子顕微鏡観察と組み合わせることで,平均シグナルの測定だけでは不可能だった,クラスリン被覆構造の成熟過程に従ったタンパク質構造や分子間相互作用の変化をはじめて解析できるようになった.この方法を用いて,エンドサイトーシスを制御するクラスリン軽鎖の細胞膜上での新規構造変化を明らかにした.ただし,詳細な立体構造,制御機構などは今回の研究では明らかになっていない.標識方法やFRETペアを改良することで,より定量的,かつ多様な距離変化の分子間相互作用や構造変化の解析が可能になる.
今回開発したFRET-CLEMと共に,ライブセルイメージング14),超解像イメージング7),遺伝子改変技術,クライオ電子線トモグラフィー15)などの測定技術の開発により,定量的なデータが得られ始めている.これらの実験データを用いて,細胞内における分子複合体の詳細な分子モデルを構築することで,細胞が機能する仕組みの根本的な解明が進むと期待している.
本稿で紹介した内容は,筆者がNIHのJustin Taraska博士の研究室で行った研究成果であり,ここに深く感謝します.また原稿にコメントをくださった吉村英哲博士(東京大学)に感謝します.