生物物理
Online ISSN : 1347-4219
Print ISSN : 0582-4052
ISSN-L : 0582-4052
トピックス
DNA配列デザインによる反応拡散系のパターン形成プログラミング
安部 桂太村田 智川又 生吹
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 65 巻 1 号 p. 14-16

詳細
Abstract

DNAは構成する塩基の配列設計によって様々な反応を実現できるプログラマブルな分子材料として研究されている.本稿では重合反応するよう配列設計したDNAを反応拡散系のプログラムに活用し,生物の発生などで見られるような並列・多段的なパターン形成を実現する人工システムの構築手法について紹介する.

1.  はじめに:反応拡散系によるパターン形成

パターン形成とは分子の拡散や反応によって自発的に秩序だった模様が現れる現象を指す.この模様は分子の空間的・時間的な粗密が変化することによって現れ,後の反応にも時空間的な影響を与える.このパターン形成の特徴的な振る舞いは,理学・情報学・工学などの様々な文脈で広く研究されている.例えば生物学では,発生の初期の段階でパターン形成が担う役割が注目されている.パターン形成によって生体分子の空間情報がもたらされ,後に組織の機能や形状を決定づける足がかりとなる1).別の例として,ヒョウやキリンのような体表の模様は,チューリングパターンと呼ばれる数理モデルに基づいて形成される時空間パターンとして説明できることが知られている2).チューリングパターンでは反応項と拡散項を含んだ,分子濃度の偏微分方程式として系の振る舞いを記述する.初期条件と境界条件を与えて反応拡散方程式をシミュレーションすると,分子の濃淡として模様が形作られる様子を模倣できる3).チューリングパターンにおいて,分子ごとの拡散速度の差はパターンの形成とその形状に大きく影響する要素である.

こうした反応拡散系を設計・構築し,適切な初期条件と境界条件を選ぶことができれば,人工のパターン形成システムを作ることが可能になる.実際,特徴的な化学振動を起こすBZ反応を用いた螺旋模様の形成など,人工の反応拡散系を用いたパターン形成の例が報告されている4).しかしながら,BZ反応に登場する個々の分子の反応性を変更したり,拡散速度を調節したりすることは困難である.パターン形成の工学的な拡張を考えたとき,反応項と拡散項の両方を人為的に変更可能なプログラマブルな分子の活用が望まれる.

2.  DNA反応拡散系

DNAは,DNAを構成する塩基の配列設計により様々な反応を実現できるプログラマブルな分子であり,人工的にパターンを形成する上で最適な材料の一つである5).例えば材料となるDNAの濃度や塩基配列を変更することで,太さや個数の異なる様々な同心円状のパターンを形成する実験系が報告された6).また,酵素によるDNAの合成・分解反応を組み合わせ,三色旗パターンを形成させ,さらに特定の領域だけでビーズを凝集させた例も報告されている7).反応のプログラムだけでなく拡散速度も制御した例として,拡散速度の遅い高分子8)とDNA論理回路を組み合わせた反応拡散系が開発されている.そのデモンストレーションとして重み付きボロノイパターンの形成が実現された9).しかしながら,これらの系は構成要素が多く,分子間の反応も複雑なため,パターン形成の並列化や多段化は困難であった.

本トピックスでは,我々が開発した,構成要素が少なく単純な重合反応を活用したDNAパターン形成技術を紹介する10).一つのパターン形成に使用するのは二種類の一本鎖DNA(L1,R1と呼ぶ)である.これらは二つの反応ドメインを持ち,5ʹ末端側同士,3ʹ末端側同士がそれぞれ結合可能な相補的塩基配列を持っている.この部分で互い違いに際限なく結合することができ,重合体を形成する(図1上).アインシュタイン-ストークスの式から,分子の拡散係数は分子サイズと反比例の関係にあり,単量体のL1とR1は塩基数が同じことから同程度の拡散係数を持つ一方,重合が進むほど拡散係数は小さくなる.

図1

矢印で示された二種のDNA L1(緑)とR1(マゼンタ)は互い違いに結合し重合体を形成する.一本鎖の単量体はハイドロゲル中を拡散し,重合体を形成すると拡散が止まる.蛍光観察実験では24時間でL1とR1の共局在を示す白色の二等分線パターンの形成が確認された.

それぞれのDNAを左右から拡散させると両方の分子が出会う場所で反応が始まり,重合が進むほど拡散が小さくなった結果両方のDNAがその場に共局在する.反応が起こる場所は二つの拡散源から等距離の地点となることから,二等分線模様が現れることが期待される.

このパターン形成を実際に観察するため,ハイドロゲルとDNA溶液を組み合わせた実験系を構築した.二つの穴を左右に持つ直方体のポリアクリルアミドハイドロゲルを作製し,それぞれの穴にDNA溶液を加えた(図1中左).

用意した一本鎖DNAはハイドロゲル中を拡散するが,反応し重合が進むと拡散係数は小さくなる.L1にFAM(緑),R1にCy5(マゼンタ)の蛍光分子を修飾し,蛍光観察によってDNA分子の時空間発展を可視化した.反応開始から約12時間後に,設計した通り緑色とマゼンタ色が共局在した白色の二等分線パターンが出現した(図1下).この過程を二等分線パターン形成と呼んでいる.

3.  パターン形成の並列化・多段化

上記の単純な重合反応は,並列化や多段化などへ複雑化が可能である.並列化とは,重合反応するDNAのペアを複数用意することで,複数の二等分線パターンを同時に出現させることである.多段化とは,最初の二等分線の形成に応じて,次段の新たなパターンを出現させることである.

並列化の実験では,正しい組み合わせのみで反応するDNAペアを複数準備し,複数の直線パターンを形成する.これらのDNAペアは同じ塩基数,同じ反応ドメイン構成,同等の反応速度を持つように塩基配列を設計されている.さらに拡散源間に複数の線を出現させるために,拡散速度の変更機構を導入し,重合反応が起こる位置を二等分の位置からずらした.拡散速度を変更するためには,拡散するDNAの分子サイズを変更することが有効である.そこで相補的な塩基配列を持つ大きさの異なるDNAを結合させ,分子サイズを変更する手法を採用した.ここまで使用したL1とR1をPair 1とし,Pair 2としてL2とR2を設計した(図2左上).L1とL2を左,R1とR2を右の溶液に用意するとPair 1とPair 2は互いに干渉せずに直線パターンを形成する.さらにL1とR2の拡散を調節することで,Pair 1の直線を二等分の位置より左側に,Pair 2を右側に形成させることに成功した.

図2

Pair 1とPair 2はそれぞれ独立して重合体を形成し,L1,R2の拡散を調節していたL3とR3は解離する.これらはPair 3としてPair 1とPair 2の重合体形成の後に重合体を形成する.ハイドロゲル中では左右にPair 1とPair 2の重合体ができ,その後にPair 3の重合体が中央で形成される.

さらに多段化の実験では,拡散速度の変更に用いるDNAとして新たなPair 3のDNAを用いた.並列のパターン形成における重合反応の過程でPair 3のDNAはそれぞれの重合体から解離する(図2右上).そのため,Pair 1とPair 2の直線パターン形成の後に,Pair 3の新たな二等分線パターンが形成される(図2下).Pair 1のL1を緑,Pair 2のR2を青,Pair 3を赤の蛍光で標識して時空間発展を観察すると,左右に緑と青の直線が現れ,その後,中心に赤の二等分線が現れるパターン形成が確認された(図3上).これらの重合反応をモデル化し,反応拡散シミュレーションを行うと,実験結果がよく再現された(図3下).

図3

Pair 1(緑)とPair 2(青)の直線が現れ,その後中心にPair 3の二等分線(赤)が現れた.パターン形成の過程を示すカイモグラフでは実験と重合反応をモデル化したシミュレーションの結果がよく一致している.

4.  おわりに

本稿で紹介したDNAの反応拡散系におけるパターン形成技術では,重合反応を活用した二等分線パターン形成の手法を基盤とし,パターン形成の並列化と多段化を実現した.形成されたパターンはDNA分子の局在によって現れた模様であり,力学的な物性変化などの機能は示さない.今後はDNAハイドロゲルなどの技術と組み合わせ,形成されたパターンの物質化を行うことで,物性の変化や機能化へ発展が期待できる.

生物の発生過程と対応付けると,物性の変化や機能化は形態形成や細胞の分化の過程に見立てることができる.発生の過程に倣い,パターン形成のプログラムを人工システムの複雑で高度な自己組織化に必要な空間情報の配置に応用できる可能性がある.こうした技術を発展させることで,将来的には生物のように自らを形作る人工臓器や大規模分子ロボットの実現が期待される.

文献
Biographies

安部桂太(あべ けいた)

東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻助教

村田 智(むらた さとし)

東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻教授

川又生吹(かわまた いぶき)

京都大学理学研究科物理学・宇宙物理学専攻准教授

 
© 2025 by THE BIOPHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
feedback
Top