2025 年 65 巻 1 号 p. 50-51
2024年度の生物物理若手の会夏の学校(以下,夏学)は,2024年8月26日~30日に,北海道の温泉街「定山渓万世閣ホテルミリオーネ」にて行われました.北海道での夏学現地開催は,2016年にまでさかのぼります1).そこから8年の年月が経過し,夏学を取り巻く環境は大きく変化しました.前回の北海道開催時に使用していた会場がコロナ禍を経て閉館してしまった一方で,夏学自体はその間オンライン開催へと舵を切り2),結果として知名度が上昇して参加者数が増加した傾向にありました(図1).これほどまで大きくなった夏学を北海道で開催できるのか,運営開始当初は不安もありましたが,約50名のスタッフの尽力により最終的には現地参加145名,オンデマンド参加78名,計223名の参加者が集う夏学が実現しました(図2).

近年の夏学参加者数の推移

第64回生物物理若手の会夏の学校の集合写真
私が学部4年生で初めて夏学に参加した際,分野外の人に研究の説明が伝わらず苦戦しながらも,時間をかけて丁寧に議論を進めた結果,最終的に議論がとても盛り上がった,という体験をしました.初めて会った異分野の人と白熱した研究談義ができた高揚感が忘れられず,自分が校長を務める夏学では,多様な個性が集結することで無数の予期せぬ出会いが起きる場を創りたいという想いで,今年のテーマを「Gradation~あなたと世界を彩る生物物理~」と設定しました.
全国から集まった大勢の参加者と,18名の講師がもつそれぞれの多様な個性が織りなす“Gradation”の中から,新たな視点を生み出す素養を培う場を創りたい.そして,今後アカデミアや産業界で活躍していく夏学参加者が,「生物物理と関わりをもつ自分が,将来社会でどう活躍するか」をより豊かに想い描けるようになってほしい,そんな想いをテーマに込めました.この理念のもと,集まってくれたスタッフと共に一年間企画を練り,運営準備を行いました.実際のプログラムや各企画に込めた熱い想い,そして講演依頼をご快諾してくださった先生方については,教頭として尽力していただいた武井さんの稿3)をぜひご覧ください.
オープニングセミナーの髙橋聡さんのご講演では,研究人生を振り返りつつ蛋白質フォールディング分野の歴史を概説いただきました.近年脚光を浴びているAlphafold2のインパクトと未だ残る謎にも触れられ,非常に刺激的なご講演でした.また,“Gradation”を意識した特別企画「異分野融合セミナー」では,それぞれ異なる分野をご専門にされる4名の先生方より,「生命現象をどう理解するか?」という話題に関して異なる視点からご講演いただいた後,聴衆も交えたパネルディスカッションを行いました.議論の中で異分野同士の対話の難しさに直面しつつも,研究において「モデル」をどう定義するかというトピックについて,各分野からの視点の違いに気付くシーンもありました.
分科会では,計8名の先生方の各90分の講演の中で,分野の基礎から最先端までご紹介いただき,質疑応答も大盛況となりました(最大30分!).参加者からの満足度も非常に高く,新しい魅力的な分野と出会えた方も多かったのではないでしょうか.また,研究談話会ではSNS活用や留学,英語の勉強法など,より身近なトピックに焦点を当てたご講演の中で,研究活動に関する多様な知恵を得られたと感じます.
デザインセミナーでは,「科学技術コミュニケーション」自体を深掘りして考えたり,獣害リスクを例に科学者が一般市民と対話する際に生じうるミスコミュニケーションを知ることができた貴重な機会でした.参加者にとって,一味違った視点から自身の研究を捉えなおす機会になったのではと考えます.
クロージングセミナーでは坂内博子先生より,任期付きのポジションを渡り歩きながら子育てに奮闘されたご経験を元に,ライフイベントの体験談と困難に向き合う心得についてご講演いただきました.若手研究者を鼓舞する熱いエールも届けていただいたことで,参加者がこれからの研究生活へ希望を抱きつつ,夏学の思い出を抱えて帰路に就くことができました.
活発な議論が行われたポスターセッションにて,参加者投票で選ばれた方々には賞を授与しました.【最優秀ポスター発表賞】嶋本大祐さん(東大・D2),【ポスター発表賞(4名)】秋山浩一朗さん(法政大・M2),目黒瑛暉さん(名大・M1),落合佳樹さん(OIST・D3),森祐二郎さん(名大・D3),【新人賞】前田皓丞さん(北大・B3),【デザイン賞(4名)】中牟田旭さん(京大・M2),山岸勇太さん(立教大・D1),市田光さん(金沢大・M2),八尾美沙奈さん(阪大・M1)
本会が目指した多様な個性の混ぜあいを実現すべく,同世代間での交流促進のための新企画「研究交流会」を行いました.ここでは,少人数グループに分かれて自己紹介を行い,参加者同士の距離が近い交流の機会を提供しました.さらにポスターセッションを計8時間確保し,新たに新人賞とデザイン賞を設けました.
また,今回は北海道開催であり例年よりも地理的に参加障壁が高いのではないかという懸念がありました.そこで,現地に来られない方にも夏学の価値を可能な限り届けるため,いくつかの初の試みを行いました.1つは講演録画のオンデマンド配信です.これにより,現地参加が難しかった方の夏学参加が叶うと同時に,現地参加者も会期後に講演を見返せるメリットがありました.加えて,Zoomを用いた「前夜祭」を会期直前に開催しました.参加した約50名全員の個性あふれる自己紹介フラッシュトークで大いに盛り上がった後,ブレイクアウトルームに分かれて自由交流を行いました.2時間での終了を想定していましたが,最終的に24時を過ぎても盛り上がっていた部屋があったほどで,夏学に向けての期待も高まりました.惜しくも現地参加できなかった方から「諦めていた参加者同士の深い交流ができた」との声をいただき,アンケートでの参加満足度も100%という結果になりました.
夏学では,思いがけず自分の興味のある周辺分野を知る機会があります.また,夏学参加や運営への関与を通じて会期後にも関係が続く仲間に出会えたという声も多く,かけがえのない魅力をもつイベントです.
一方で,学生が運営主体である体制には課題も感じます.例えば,夏学運営実行委員はこれまで各地方の支部が持ち回りで担当してきており,人手不足の支部が人員の確保に苦労することが多々ありました4).第64回もそのような状況からのスタートでした.夏学の理念に共感し運営に貢献したいと考える若手研究者が,担当支部に関わらず積極的に運営に貢献できる体制を整えることは,会の持続可能性を高めるという面でも,若手コミュニティの活発化につながるという面でも,会にとってプラスです.第64回では運営主体が北海道・東北支部でしたが,他の地方在住のスタッフにも協力していただき,北海道支部のスタッフだけでは運営できない規模の実現につながりました.そしてこの流れを受け,第65回からは完全な全国運営に方針転換をしております.今後,夏学運営を通じて全国の若手研究者間交流がさらに活発化することを期待します.
最後に,本夏学の開催にご協力いただいた共催・助成・後援団体の皆様,そして個人・企業として協賛くださった皆様に御礼申し上げます.そして何よりも,本夏学成功に欠かせなかった一人一人のスタッフの皆様へ,この場を借りて最大限の感謝を申し上げます.