2025 年 65 巻 1 号 p. 9-13
哺乳類の内耳において,モータータンパク質「プレスチン」は膜電位に応答して外有毛細胞を伸縮させることで,音の振動を機械的に増幅していると考えられている.私は今回,電位クランプ蛍光分析法を用いてプレスチンの構造変化を可視化することに成功し,プレスチンの構造変化が外有毛細胞の運動を駆動することを強く裏付ける発見をした.

The mammalian inner ear achieves high sensitivity to sound by mechanically amplifying sound vibrations by outer hair cells (OHCs). This “cochlear amplification” relies on the activity of the membrane-based voltage-driven motor protein “prestin”, which senses the changes in the membrane potential and dynamically expands and contracts the OHCs (so-called “electromotility”). Despite some structural studies, how prestin drives electromotility remains elusive. By employing the voltage-clamp fluorometry technique, I visualised the structural changes of prestin, suggesting that the conformational changes in prestin that drive electromotility are cognate to the ion transport cycle of the SLC26 transporter family to which prestin belongs.
我々哺乳類の聴覚器官である耳は,微小な空気振動を音として感じ取るのに特化した機能と構造を持つ.その中でも,内耳の蝸牛に存在する外有毛細胞は,膜電位の変化に応じて細胞長を伸縮させる1)ことで音の振動を機械的に増幅しており,この「蝸牛増幅」というしくみは,哺乳類の音に対する高い感度において,とりわけ重要な役割を担っている.この外有毛細胞の運動はエレクトロモーティリティ(electromotility;以下eM)と呼ばれ,細胞側面の細胞膜に高密度に局在している膜電位駆動型モータータンパク質「プレスチン」(prestin)2)が,このeMを駆動していることが分かっている.プレスチンは,SLC26陰イオン輸送体の遺伝子ファミリーに属する膜貫通タンパク質であり,その運動活性には細胞内の塩化物イオンが必須である3)が,他のSLC26陰イオン輸送体に比べて陰イオン輸送活性が非常に小さく4)ほとんど検出されない.
最近,国内外の4つの研究グループによりプレスチン全体の立体構造が解析され,クライオ電子顕微鏡法により哺乳類の異なる生物種由来のプレスチンの複数の状態が発表された5)-8).どの状態の立体構造も,SLC26陰イオン輸送体が基質となるイオンを輸送する機構のモデルである「エレベーター機構」9)に則った構造をとるため,他のSLC26陰イオン輸送体がイオンを輸送する際に起こすのと同様の構造変化をプレスチンは膜電位依存的に起こすことにより,eMを駆動していることが予想されている.しかしそれらの構造は,クライオ電子顕微鏡法の特性上,膜電位のない状態において解析されており,また複数の状態は,由来する生物種やサンプル調製時の可溶化の条件,プレスチンの基質となるイオンや阻害剤などの条件を変化させることにより解析されたものであるため,eMを駆動するプレスチンの膜電位依存的な構造変化を示すものか検証する必要がある.
私は,eMというダイナミックな細胞運動の素子であるプレスチンの本質を理解するためには,プレスチンの膜電位依存的な構造変化を光学的に可視化することが重要であると考えた.私は,電位クランプ蛍光分析法を用いてプレスチンの構造変化の可視化に成功し,プレスチンが膜電位依存的にエレベーター機構に則った構造変化を起こすことでeMを駆動すると結論づけた10).本総説では,まずeMとプレスチンにまつわるこれまでの知見を紹介したあと,私が電位クランプ蛍光分析法により得た結果と,プレスチンが引き起こす特徴的な電気生理学的活性である「非線形な細胞膜の電気容量」(non-linear capacitance;以下NLC)との関係について考察する.
外耳が収集した音の振動は,中耳の耳小骨を介して非常に効率よく内耳の蝸牛内のリンパ液へと伝わる.内耳の蝸牛にはコルチ器という感覚器官があり,蝸牛のらせんに沿って3列または4列の外有毛細胞(約11,000細胞)と1列の内有毛細胞(約3,500細胞)が並んでいる.上皮細胞の一種である有毛細胞は細胞極性を持ち,頂端に「不動毛」と呼ばれる感覚毛が生えている.図1に示すように,外有毛細胞は,①リンパ液を介して,音の振動がコルチ器の基底膜を揺らす→②不動毛が振動を感じる(機械的振動を膜電位に変換)→③細胞が脱分極する→④プレスチンが膜電位の変化を感じて細胞長を収縮させる(膜電位を機械的な力に変換),というプロセスを経て振動を機械的に増幅する.また内有毛細胞は,⑤外有毛細胞が増幅した機械的刺激を不動毛で感じ,細胞を脱分極させる→⑥求心性神経終末を介してシナプス伝達が起き電気信号が脳に伝わるというしくみで,外有毛細胞が増幅した機械振動を電気信号に変換して脳に伝達する.

哺乳類の耳の模式図.哺乳類の内耳では,蝸牛内のコルチ器のらせんに沿って外有毛細胞と内有毛細胞が並び,それぞれ機械振動の増幅と,増幅された振動の電気信号への変換を担っている.
蝸牛増幅における重要な機構として外有毛細胞のeMが発見されて以来,外有毛細胞の側面の細胞膜に密に局在しており,膜電位を感じて細胞膜表面における断面積を変化させることで細胞長を伸縮させる「エリアモーター」11),12)の存在が予想されてきた(図2).実際に,外有毛細胞の側面の細胞膜表面には規則正しく密に並ぶ粒子が観察される13).その後,エリアモーターの最も有力な候補としてプレスチンが同定され2),プレスチン遺伝子を欠失させたマウス14)や,プレスチン遺伝子にミスセンス突然変異を導入したマウス15)の聴力が著しく低下すると同時に,外有毛細胞にeMが観察されなくなることから,プレスチンがエリアモーターの実体であることは広く信じられているものの,プレスチンがeMをどのように駆動しているのかは明らかになっていない.

プレスチンは外有毛細胞の側面の細胞膜に密に局在しており,膜電位の変化に応答して構造変化する.この構造変化の際に,プレスチンの細胞膜表面における断面積が変化し,個々の分子の断面積の変化が協調することにより,細胞長のダイナミックな変化であるエレクトロモーティリティ(eM)が観察される.プレスチンは膜電位の変化に高速に応答してゲート電流を起こし,細胞膜の電気容量が非線形に変化する(NLC).図中のTAMRA(蛍光分子)は本研究の電位クランプ蛍光分析法における染色箇所を表す.
外有毛細胞が持つもうひとつの重要な電気生理学的特徴は,プレスチンの構造変化により膜電位依存的にNLCが検出されること16)である(図2).細胞膜の電気容量は細胞膜の表面積や厚みに依存するため,通常は一定であり急激な変化を示すことはない.しかし,例えば周波数2 kHz,振幅10 mVの正弦波交流をプレスチンの存在する細胞膜に与えたとき,ある膜電位(典型的には外有毛細胞の静止膜電位に近い–60~–80 mV付近;以下ピーク電位)をピークとして細胞膜の電気容量に変化が見られ,膜電位と細胞膜の電気容量の関係は,ベル状の曲線を描く(図2).個々の細胞はその細胞膜の表面積や厚みによって固有の電気容量を持つが,この電気容量を線形成分としたとき,プレスチンが存在することにより変化する成分を非線形成分,すなわちNLCと呼ぶ.通常,ホールセルパッチクランプ法を用いて膜タンパク質の活性を電流として測定するときには,回路内において細胞膜の電気容量を補償するが,外有毛細胞の細胞膜においては膜電位によって細胞膜の電気容量が変化してしまい,補償が通常通り行えなかった16)という歴史的経緯から,この現象はNLCと名付けられた.
NLCという名称は,細胞膜を構成する脂質二重膜の表面積や厚みの変化を示しているという誤解を招きやすい用語であるが,その実態はむしろ,プレスチン分子の引き起こす「膜電位の変化に高速に応答するゲート電流」である.一般的に,電位依存性膜タンパク質は膜電位の変化を感知して構造変化を起こし,構造変化前と後のタンパク質の電荷の重心が膜を横切る方向に変化することにより,結果として細胞膜内において電荷移動が起き電流として計測される.これをゲート電流と呼ぶ.ゲート電流はタンパク質の構造変化の速度に支配され,一般的に膜電位の変化から遅れて起きる.その一方,プレスチンはこの電位依存的な構造変化が非常に速いことが特徴であり,周波数2 kHzという高速な正弦波交流を細胞膜に与えても,その電位変化に応答してゲート電流を起こす.細胞膜をコンデンサに見立てたとき,あたかもプレスチンがコンデンサ内に挿入された誘電体として振る舞い,誘電分極を起こしているように見えるため,結果として細胞膜の電気容量が大きく計測される.この電気容量の変化は,プレスチンが構造変化を起こさなければ観察されないため,プレスチンが構造変化を起こしやすいピーク電位付近で膜電位を変化させるとNLCは最も大きくなるが,ピーク電位から離れた過分極あるいは脱分極状態で膜電位を変化させてもNLCは見られない.
「2状態ボルツマンモデル」17)に基づき,NLCはeMと密接に関わる現象であると考えられている.2状態ボルツマンモデルは電位依存性膜タンパク質の状態遷移を解釈するモデルとして,最も簡単かつ広く用いられているモデルである.このモデルでは,プレスチンは脱分極時の収縮状態と,過分極時の伸長状態の2状態を取る(図2)と仮定し,両状態を取る分子の比率は膜電位依存的にボルツマン分布に従うと考える.eMによる外有毛細胞の細胞長の変化は,伸長状態を取るプレスチン分子の比率に比例するため,脱分極するに従って単調減少するシグモイド曲線を描く.一方で,NLCはプレスチンが2状態間を遷移する際に起きるものであるため,シグモイド曲線を膜電位で一階微分したベル状の曲線を描く.
外有毛細胞以外の細胞にプレスチンを発現させてもダイナミックなeMは見られない一方で,外有毛細胞を哺乳類の実験動物から単離してeMを定量的に測定する方法は技術的に非常に難しいため,NLCはeMの代替としてプレスチンの活性測定によく用いられてきた.しかし,これまでNLCとeMの関係は実験によって直接的に実証されていなかった.
エレベーター機構に基づくと,プレスチンは「足場ドメイン」を向かい合わせて二量体化し,「輸送ドメイン」が足場ドメインに対して細胞膜内を大きく移動するという構造変化を起こすと考えられる(図2).そこで,「輸送ドメイン」のうち細胞外に露出すると考えられるアミノ酸残基をシステインに置換したラット由来のプレスチン変異体を,RNAインジェクションによりアフリカツメガエルの卵母細胞に発現させた.発現後,そのシステイン残基に,メタンチオスルホネートを介してテトラメチルローダミン(TAMRA)を導入することで,プレスチンを特異的に染色した.TAMRAは,周囲の疎水性・親水性や,取り囲むアミノ酸残基などの環境に応じて蛍光特性が変化する色素であり,電位クランプ蛍光分析法により膜電位依存的な蛍光強度の変化を測定することで,プレスチンが構造変化する際に,導入したシステイン残基の周囲の環境が変化することを検出できる(図2,図3A).

(A)電位クランプ蛍光分析法の模式図.2つの電気信号増幅器を用いて,膜電位を変化させたときの蛍光強度を測定する.(B)~(D)電位クランプ蛍光分析法による測定結果の代表例.膜電位は図B下方に示すグラフのように変化させ,各電位の色は蛍光強度のグラフの色に対応する.(E)膜電位と蛍光強度の関係.10個の卵母細胞から得た測定結果の平均と標準誤差を示す.(F)NLC測定のために変化させた膜電位の例.(G)電位クランプ蛍光分析法の結果(黒,測定結果の代表例)とNLC(青,6個の細胞から得た測定結果の平均と標準誤差)の関係.黒のプロットは,TAMRAの蛍光強度(F)を膜電位(V)で微分した導関数(dF/dV).黒の曲線は,(dF/dV)を2状態ボルツマンモデルに基づきフィッティングしたもの.図E,Gは文献10のFig.6を改変して再掲.
陰性対照として野生型プレスチンを発現させた卵母細胞には蛍光強度の変化が見られなかった一方(図3B),測定した変異体のうち,アルギニン150をシステインに変異させたR150C変異体は,膜電位依存的にTAMRAの蛍光強度の変化を示した(図3C).この変化は,プレスチンの膜電位依存的な構造変化に伴い導入したシステイン残基の周辺の環境が変化したことによるものであると考えられる.さらに,プレスチンのeM,NLCの両方を阻害するサリチル酸存在下においては蛍光強度の変化が小さくなり,蛍光強度変化の膜電位依存性に変化が見られた(図3D, E).これらの蛍光強度の変化は,各膜電位において一方の状態を取るプレスチン分子の比率を反映すると考えられるが,確かに膜電位依存的にシグモイド曲線に従って変化しており,2状態ボルツマンモデルを強く裏付けるものである.
私はさらに,R150C変異体をリポフェクション法によってチャイニーズハムスター卵巣細胞に過剰発現させ,TAMRAで染色した上で,ホールセルパッチクランプ法を用いて周波数2 kHz,振幅10 mVの正弦波交流を与え,その振動中心を–140 mVから120 mVまで変化させることでNLCを測定した(図3F).電位クランプ蛍光分析法によって得られた蛍光強度の変化を膜電位で微分したところ,膜電位依存的にベル状の曲線を描き,NLCの曲線と明確な一致を示した(図3G).一方の状態を取るプレスチン分子の比率を反映すると考えられる蛍光強度の変化を膜電位で微分するということはすなわち構造変化の確率を表し,これがNLCと一致した膜電位依存性を示すという本研究の結果は,プレスチン分子の構造変化がeMを駆動しているというエリアモーターモデルを強く裏付けるものである.
これまで,プレスチンがeMを駆動する素子であることは広く信じられていたものの,そのしくみは明らかになっていなかった.私は今回,プレスチンの膜電位依存的な構造変化を可視化し,プレスチンの構造変化がeMを駆動するというエリアモーターモデルを実証した.本研究ではさらに,近年解析されたプレスチンの立体構造5)-7)をもとに分子動力学シミュレーションを行い,今回観察された膜電位依存的な構造変化がエレベーター機構に則った状態遷移であることを予測した10).シミュレーションの結果,アルギニン150と,それに近接するグリシン239やアスパラギン酸342の位置関係が構造変化に伴って大きく変化し,R150C変異体において標識したTAMRAの蛍光強度を変化させていることが示唆された.
陰イオン輸送活性が非常に小さいため,タンパク質を通過する基質を電流として測定するという一般的な電気生理学的手法を用いることが困難なプレスチンにとって,NLC測定法は有用な活性測定方法であるものの,ホールセルパッチクランプ法の特性上,測定できる膜電位域が–140 mV~100 mV程度である(図3F, G)という限界があった.TAMRAで標識したR150C変異体のピーク電位はこの測定限界の付近にあり,さらに負の膜電位のNLCは測定できていない.私は以前の研究で,プレスチンの細胞外ループに存在する電荷を持つアミノ酸がピーク電位を調節していることを明らかにした18).それらのアミノ酸を変異させることでループの持つ電荷を変化させたとき,ピーク電位が変化するが,NLCの膜電位の変化に対する感度(すなわちベル状の曲線の尖り度合い)は変化しないという結果を得た.本研究のR150C変異体においては,細胞外に露出する荷電性アミノ酸を変異させ,さらにTAMRAで標識するという修飾を加えたという影響により,ピーク電位が野生型プレスチンよりも負にシフトしたと考えられるが,NLCの膜電位の変化に対する感度には影響はないと考えられる.
私は以前,「ペンドリン」という他のSLC26陰イオン輸送体がプレスチンと共通した性質を持つNLCを示すことを発見した18).ペンドリンにおいて,上述した細胞外ループに相当する部分の荷電性アミノ酸を変異させたところ,ペンドリンのピーク電位も変化し,これまで測定可能な膜電位域から外れていて見過ごされていたNLCを発見した.しかし現在のところ,それ以外にプレスチンと共通した性質を持つNLCを示す生体分子は知られておらず,さらにeMと類似する生命現象もないため,プレスチンの機能を説明するモデルを裏付ける実験結果が不足していた.本研究は,「スナップショット」であるプレスチンの立体構造5)-8)を動的に結びつけ,eMにおけるプレスチンの生理学的本質に迫るものである.一方で,個々のプレスチン分子の構造変化がどのように協調し,eMというダイナミックな細胞運動が引き起こされているのかは明らかになっておらず,今後の研究課題である.
今回の研究では,これまで考えられてきたモデルを実証するとともに,電位クランプ蛍光分析法によりプレスチンの機能を測定する新たな方法を確立した.本手法は,従来のNLC測定法に比べてより幅広い膜電位域を測定できるという利点を持つ.eMは79 kHzの膜電位の変化にも応答できる高速な運動性能を持つと報告されており19),今後は電位クランプ蛍光分析法を用いて,我々ヒトが音という高速な物理現象をいかにして感じているのかに迫りたい.
本総説は,Bassam G. Haddad博士,Dominik Lenz-Schwab博士,Julia Hartmann博士,Piersilvio Longo氏,Britt-Marie Huckschlag氏,Anneke Fuß氏,Annalisa Questino氏,Thomas K. Berger博士,Jan-Philipp Machtens教授,Dominik Oliver教授との共同研究の原著論文10)に基づくものである.本研究にご尽力いただいた共同研究者の皆様,日頃の研究を支えてくれている家族にこの場をお借りして御礼申し上げる.
桑原 誠(くわばら まこと)
フィリップ大学マールブルク(ドイツ)
生理学・病態生理学研究所博士学生
(顔写真はStephan Tang氏@stephantangphotographyが撮影.)