生物物理
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巻頭言
挑戦は足元から
林 久美子
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2025 年 65 巻 3 号 p. 125

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昨年末,『椿姫』でアルマン役を踊る男性バレエダンサーのフリーデマン・フォーゲルの舞台を観た.20代にしか見えない情熱的なアルマンだったけれど,たぶん45歳くらい?令和の時代には50代で現役のバレエダンサーもけっこういて,彼らの白タイツ姿を見ていると,この年齢でこれをやるのか!という驚きとともに,なんだか清々しい気持ちになる.20代男性の白タイツ(王子)姿がカッコいいのは当然としても,50代男性の白タイツ姿には,手を抜かず丁寧に生きてきた人生がにじみ出ていて,そこには,ただ美しい動く彫刻を超えた,人間味とセクシーさが表れていると思う.

私は平日の夜にバレエ教室に通っている.今年1月の一大決意は,レオタードをハイレグ仕様にしたこと!時々一緒に練習する10代のバレエ女子たちが,ローザンヌに出るダンサーみたいなハイレグ仕様のレオタードを着こなしているのを,前からカッコいいと思っていて,昨年の12月,思い切って勢いで自分にも一着,買ってしまった.レースクイーンのようなセクシーさとは全く違うけれど,バレエのレオタードもハイレグ仕様の方が脚が長くきれいに見える.そして何より,自分の身体を人前にさらすこと自体が,じわじわ近づく50代を前に,どこか清々しく,ちょっとした勇気のように感じている.

今までは,お尻がしっかり隠れる大人向けのブルマっぽいタイプのレオタードを着ていた.それはそれで(はみパンしない)安心感があったけど,ハイレグ仕様に変えたときはまさに清水の舞台から飛び降りる気持ちだった.ハイレグを着るから足が細くなり,お尻が締まるのか.はたまた,足が細くてお尻が締まっているからハイレグを着るのか.どっちが正解かは人によると思うけれど,私にとっては「ハイレグ仕様のレオタードを着るから細くなる」が正解な気がする.

動くたびにレオタードを下に引っ張る癖がついてしまって,どうしても気が散る.バレエクラスに意地悪な人はいないと分かってはいても,「あのオバさん,はみパンしてる」なんて思われてそうで,やっぱり恥ずかしい.実際に,若干はみパンしていて,ちょっと見苦しいし.普段は教授として堂々と人前で講演している私も,平日の夜は,情けないけど,はみパンを気にして集中できない自分の弱さと向き合っている.

挑戦するからできるようになるのか,できるから挑戦するのか.私の中には「挑戦するからできるようになる」の方が正解だと信じたい気持ちがあって,ハイレグ仕様のレオタードを着ようと思った気持ちの奥には,研究でも無理そうなことに挑み続けたいという思いがある.若い頃,未来が何も決まっていなくても,変わりたいと願って,自分の可能性を信じて,物理学会を退会したことがある.あのときの,清水の舞台から飛び降りるような気持ちが,めぐりめぐって今,別の学会―すなわち生物物理学会―の学会誌の巻頭言を書く現在の自分へとつながっている.

 
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