生物物理
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巻頭言
昔はよかった
加藤 貴之
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2025 年 65 巻 4 号 p. 179

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歳をとると表題の言葉を耳にする機会が増えた気がします.

私は田舎の生まれです.夏にはカエルの大合唱が聞こえ,近くの雑木林でカブトムシが取れました.蛇が庭先にいたり,野生のイタチが歩いていることもありました.自然が豊かでゆっくりと時間が流れていたように思います.その点で表題の「昔はよかった」という言葉には賛成です.しかし,生活面ではどうでしょうか.テレビの録画はできなかったので,見たい番組を見るには必ずその時間にテレビの前に座らなければいけなかったし,携帯やスマホはもちろんなかったのでデートの誘いは固定電話に電話をし,お母さんというハードルを越える必要がありました.何かを知りたければ図書館に行って本を探してページをめくり,それをまとめるには手書きのメモが必須でした.ところが今となっては,スマホ一つあれば調べものは家から一歩も出る必要はありません.初めて行く場所でも道に迷うことはなく,距離や国境の縛りなしに人と即座につながることができます.財布を持たずに買い物ができ,誰でもカメラマンになれます.利便性という点では昔とは比べるべくもありません.この点で昔の方がよかったと言えるでしょうか?

さらに最近の機械学習の発展は目覚ましく,英文を翻訳・校正したり,画像を作ったり,プログラムを組んだりと以前は専門家がやっていた仕事も,人の言葉で「お願いする」だけで作成してくれます.かつては膨大な時間を使って解析をしていたタンパク質の構造も,配列を入れるだけでかなり正確に予測してくれます.構造解析を生業としてきた人間からすると悲しくもありますが,時代の潮流を止めることはできません.科学の分野でAIは日進月歩の勢いで進んでおり,気づかないところで実は使われていたということも出てくると思います.地味に我々の業務を圧迫している事務作業もAIに処理させることが可能です.会議の文字起こし・議事録作成や「論文投稿しませんか?」のメールへの自動返信などは今でも十分にAI任せにすることができます.

現在の生成AIは完ぺきではなく,まだまだ平然と嘘をつきます.そのため毛嫌いして使っていない人も多くいますが,道具は使い方です.うまく使えばこれまで膨大な時間を費やしてきた作業を大幅に減らすことができます.事実この文章の多くをChatGPTで作成しました.便利な時代になったものです.「昔はよかった」と懐かしむ気持ちもありますが,今の時代の良さを素直に享受したいですね.

 
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