生物物理
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総説
デスミン中間径フィラメントとアクチン線維との間のルースな相互作用
羽鳥 晋由
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2025 年 65 巻 4 号 p. 188-191

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Abstract

筋細胞に発現するデスミン中間径フィラメントは細胞に機械的強度を与え,統合性に寄与する.中間径フィラメントを含めた細胞骨格線維間のクロストークが細胞機能調節に重要な働きをもつ可能性がある.本総説では,in vitro蛍光顕微鏡観察により明らかにしたデスミンとアクチンとの間の相互作用の様態を紹介する.

Translated Abstract

In metazoan cells, microtubules (MTs), intermediate filaments (IFs), and actin filaments (AFs) are involved in maintaining cell integrity and regulating cell motility. Unlike MTs and AFs, IFs are nonpolar filaments composed of elongated units. It has been postulated that type 3 IFs and AFs interact directly, which may facilitate the organization of cytoplasmic networks. We observed colocalization between desmin IFs (type 3 IFs in muscle cells) and AFs in cell-sized droplets in vitro via fluorescence microscopy. Direct observation of individual desmin IFs and moving AFs on myosins demonstrated a nematic behavior of AFs along desmin IFs due to loose interactions.

1.  多様な細胞骨格要素―中間径フィラメント

後生動物細胞において細胞骨格は,微小管,中間径フィラメント(IF),アクチン線維から構成され,細胞運動や形状維持に関与しており,それら要素間の相互作用が細胞機能調節に重要な意味をもつと考えられる1).微小管とアクチン線維は,それ自身の重合・脱重合やモータータンパク質との化学力学作用により細胞運動や細胞内輸送の原動力となるため,生物物理の主要な研究対象となってきた.一方でIFの細胞生物学的重要性は認められているものの,形成の分子機序や立体構造などは未だに不明な点が多い2).IFタンパク質は主に5つのタイプに分類され組織特異的に発現する.さらに同種においても構成される線維に多形性があることも包括的な理解を難しくしている.1990年代後半から,タイプ3のデスミン(筋細胞に特異的に発現)やビメンチン(間葉細胞などに発現)の線維形成に関するin vitroでの研究が精力的に進められた.それにより標準的な(一概にはあてはまらない)線維形成は次のように説明される3).約50 kDaの単量体は,中間部にαヘリックスによるコイル領域をもち,N末端側とC末端側の領域は明確な構造をとらない.2つの単量体は平行に結合し,コイル領域でコイルドコイル構造を形成し2量体となる.さらに2量体が逆平行に結合し4量体となる.8つ以上の4量体が側面会合し,長さ約60 nm,直径17 nmの単位長線維(unit-length filament; ULF)を形成する.ULFが末端同士で連結して繋がることで線維が伸長し,さらに側面圧縮が生じ直径約10 nmのIFが完成する(図1).

図1

タイプ3中間径フィラメントの形成機構.(A)コイル領域をもつ単量体が平行に結合し2量体を形成する.2つの2量体は逆平行に結合し4量体となる.複数の4量体が側面結合して単位長線維(ULF)を形成し,末端間結合で中間径フィラメントが伸長する.(B)アクチン線維とデスミン中間径フィラメントのAFM位相像.

ただし,環境の違いにより会合数が変化することや,線維間での結合によるネットワーク形成,線維内での多量体の交換,外力による2次構造転移なども起こることから,その構造は極めて多様である.

細胞内でIFネットワークは細胞小器官間の接続や,外力に対する機械的緩衝要素としての役割を担っていると考えられる.その性質を知るためにin vivoおよびin vitroでのレオロジー測定が広く行われてきた.そのなかでin vitroでのアクチン線維とビメンチンIFの複合ネットワークの弾性率が,それぞれの単種の和より高いことが示された4).この結果からビメンチンとアクチンとの間の直接的な相互作用が示唆された.一方で,この複合ネットワークのメッシュサイズに基づいた解析では,これら線維間の特別な相互作用は見出されなかった5).このような議論が続くなか,IFとアクチン線維そして微小管との間の相互作用に関する調査が進行している6)

ビメンチンとの配列相同性が高く形成様式が類似するデスミンは,筋細胞内のZ帯やミトコンドリア,核,細胞膜などと相互作用するとともに,要素間を接続することで適切な空間配置を提供し,筋機能の維持に広く関与する7).その観点からデスミンIF(以降,デスミン線維と表記)がアクチン線維や他の細胞質要素に与える影響を調べることは,筋組織の統合性を考える上で重要となる.筆者の研究室ではin vitro蛍光顕微鏡観察法によりデスミン線維形成およびアクチン線維との相互作用を調査している8)-11).本総説では,これらの研究から得られた知見を紹介する.

2.  異なる2種類の線維で構成されるネットワーク特性

IFとアクチン線維は生細胞内でそれぞれ異なる分布をとることも共存することもある.そこで最初の興味は,アクチン線維とデスミン線維が物理的にどのように細胞サイズ空間で分布するのかであった.2種の線維を可視化するために異なる蛍光色素で標識した.デスミン線維の観察には主に透過型電子顕微鏡やAFMが用いられており,蛍光色素を直接付けてin vitroで観察した報告は少ない.筆者らはデスミンの蛍光標識と線維形成を次の手順で行った.1980年代に確立された尿素抽出法により鳥砂肝からデスミンを精製した(6 M尿素下では主に4量体で存在する)12).尿素存在下で,デスミンの唯一のシステインをマレイミド基を介して蛍光標識した.ほぼ純水の溶液に対する透析により尿素を除去することで,水溶液中で分散した多量体を得た.この試料に塩を添加することで線維形成を開始させた.ULF形成は1秒以内に完了し,ULF間の結合により線維が経時的に伸長する(3節で説明).

油中水滴法(DOPEリン脂質・ミネラルオイル中の液滴)を用いて,線維形成開始直後にデスミンとアクチンを細胞サイズの液滴に封入し,それらのネットワークを経時観察した8).予期せぬことにアクチンに比べてデスミンは液滴の大きな変形や突出を引き起こした.IFが細胞内での機械的緩衝・支持要素であることを考えれば,液滴の変形を維持することは理に適っている.デスミンが線維形成する過程でアクチン線維と混合されたとき,2種の線維ネットワークは共局在した(図2A左).特にデスミン線維ネットワークによる液滴の突出部分にもアクチン線維が存在していた.一方で,デスミン線維形成後での混合では2種のネットワークは分離する傾向にあり,これはアクチンの重合には依存しなかった(図2A右).これらの結果は,デスミンの動的変化に応じてアクチン線維の挙動が変化することを示唆する.さらに液滴空間の周縁部,すなわちリン脂質層にデスミンが分布する傾向がみられたことから,リン脂質と結合する可能性も浮上した.油中水滴にDOPEやDOPSを使用したとき,線維形成過程のデスミンは液滴周縁に分布した(図2B右)9).一方でDOPCでは空間内で均一に分布した(図2B左).意外なのは,DOPSが負電荷性のリン脂質であるにもかかわらず,酸性のデスミンとの親和性を示したことである.ただし線維形成したデスミンではDOPCの場合と同様に均一な分布となった.リン脂質との結合の仕組みは現在のところ不明であるが,デスミンの形態そしてリン脂質種に応じて親和性が変化する可能性がある.細胞膜や小器官膜には特有のリン脂質種の分布があることから,状況に適した集積があるかもしれない.

図2

油中水滴内でのデスミン線維の分布.(A)デスミンとアクチンの蛍光像(上図)とそれらの画像の間の相関係数のヒストグラム(下図).相関係数が1に近いほど,2つの線維の共局在性が大きい.デスミンとアクチンはそれぞれTMR-maleimideとIC5-NHSにより標識された.(B)DOPEリン脂質層でのデスミン線維の偏局在(右).文献89より改変して転載.

3.  デスミン線維のin vitro蛍光イメージング

前節では,バルクのネットワークに関してデスミン線維とアクチン線維との相互作用の可能性を示した.さらに一本の線維レベルでの観察が相互作用の直接的な証拠となる.そのため,個々に分散したデスミン線維の蛍光観察に適した濃度,イオン強度,インキュベーション時間そして2価陽イオンの効果を調査した10).KClの添加直後にデスミン多量体からULFが形成され,その後24時間にわたり線維の伸長がみられた(図3A).Mg2+存在下では線維伸長の促進と線維像において3倍の蛍光強度の増加がみられた(図3B).このことは,線維の側面会合も促進され線維中の4量体数が増えたことを示唆する.さらにZn2+はμM濃度レベルで劇的に凝集を引き起こすことも確認された.線維の側面会合は,C末端側領域での2価陽イオンによる静電架橋によるものと考えられる.これらの結果は他の方法ですでに報告されているが13),蛍光顕微鏡観察でも同様な傾向が確認できた.このように条件により線維の多形化が生じる.

図3

AZDye488標識デスミン線維の蛍光顕微鏡像.(A)集合開始からの線維長の増加.(B)2価陽イオンによるデスミン線維の蛍光強度の増加.デスミンの蛍光標識率は20%.文献10より改変して転載.

4.  線維間の1対1相互作用の直接観察

独立した線維間での1対1の接触を実現するために,骨格筋由来の双頭ミオシンフラグメント(heavy meromyosin; HMM)上でのアクチン線維の滑り運動法であるin vitro motility assayにデスミン線維の導入を試みた11).この方法では,HMMをネック側で固定するためにガラス表面をコロジオン膜でコートする.HMMのアクチン結合部位は,どちらかと言えばコロジオン膜に対して立ち上がるように位置する傾向があり,運動活性を維持できる.予期せぬことに,デスミン線維はその表面に固定された.図らずもデスミン線維はミオシンとも結合する可能性がある.この系にローダミンファロイジン標識アクチン線維とATPを添加すると,ミオシン頭部でのATP加水分解をエネルギー源としてアクチン線維の滑り運動が生じる.アクチン線維が運動する間,デスミン線維の移動はなく,HMM・コロジオン膜表面でデスミン線維は安定的に固定されていた.そのため,運動するアクチン線維が非運動のデスミン線維に接触・通過する状況を設けることができた(図4A).接触直後にアクチン線維の速度が10%低下した.そしてアクチン線維がデスミン線維に沿った方向へ移動する様子が観察された(ネマチックな挙動).アクチン線維のデスミン線維への入射角に対する出射角の関係を求めると,入射角45度まではネマチック性があることが統計的に示された(図4B).しかしながら,その作用はきまぐれであり,デスミン線維とアクチン線維の間の相互作用は極めてルースであると言わざるを得ない.むしろDOPEリン脂質やミオシンとの非特異的な結合の方がはっきりしていた.

図4

アクトミオシン系のin vitro motility assayへのデスミン線維の導入.(A)HMMコロジオン膜上にデスミン線維を固定した後,ATP存在下でアクチン線維が滑走する.デスミン線維との接触によりアクチン線維の進行方向が変化する.(B)デスミン線維の長軸方向を基準にしたアクチン線維の入射角と出射角の関係.デスミン線維の非極性により入射角は0~90度.文献11より改変して転載.

5.  ルースな相互作用の意義と組織化への洞察

バルク溶液では,デスミン線維とアクチン線維のネットワークは共局在する一方で,個々の線維の観察では,ミオシンとアクチンのように,“ペタペタ”とくっつくような状況はみられなかった.結局のところデスミン線維とアクチン線維との間の相互作用はルースであり,冗長性を担保しているのではないか.実際に細胞内でのデスミンの欠損は致命とはならない.ただし,デスミンの線維形成能の低下(特にN末端側領域の変異による)あるいは欠損は,組織の統合性を損ない筋細胞の張力や調節能の低下を引き起こす14)

IFとアクチン線維や微小管とを架橋するタンパク質プレクチンが存在する15).細胞内の細胞骨格ネットワークの形成や統合性はこれら架橋要素の作用も絡むため,さらに複雑である.一方で,本稿で示したネマチックな挙動のような線維間の非特異的で容易に分離可能な相互作用も生体活動において何らかの意味をもつと筆者は考えている.In vitro実験系では複雑な細胞内のネットワークを再現するのは容易ではないが,生物現象の根底にある物理を提供するであろう.組織化の例としてアクチン線維の集団運動がある.ミオシンモータータンパク質上を滑走するアクチン線維の密度が高くなるにつれ,線維間の非特異的な会合が生じ,長距離にわたって相関をもつことで,アクチン線維の運動方向が揃うよう誘導される16),17).IFはそれ自体は非極性構造線維で非運動性である.しかし,運動するアクチン線維を摂動させる能力があるならば,組織化に影響を与えるのではないだろうか.さらに言えば,線維やネットワーク形状をもつ要素が本質的にもつ作用なのかもしれない.

6.  多種で動的な中間径フィラメント

筆者の研究室では安定な線維構造でのデスミンを扱ってきた.本総説では詳しく述べないが,IFはリン酸化により解体される動的な性質をもつ18).そしてまた,上皮細胞ではケラチン,神経細胞ではニューロフィラメントなどが発現し,組織特異的に適材適所で働いている.これらは,タイプ3とは異なった物理化学的特性をもつ.動的な作用や状況に適応した特性が,どのように細胞質中の他のタンパク質に影響を及ぼし,組織化に関与するのかは今後の課題である.IFを含む細胞骨格が後生動物細胞に特有であることは,高度な組織化に必要であることの証かもしれない.

謝辞と研究助成

本総説で紹介した研究成果は,大学院生(当時)の石坂拓海氏,佐藤雅思氏,村上慧伍氏,宮坂禎也氏の研究協力によるものであり,ここに感謝の意を表する.JSPS科研費23K03335の助成を受けた研究成果を含む.

文献
Biographies

羽鳥晋由(はとり くにゆき)

山形大学大学院理工学研究科准教授

 
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