生物物理
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巻頭言
ChatGPTから始まった日常革命:研究者とAIの蜜月と困惑
内橋 貴之
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2025 年 65 巻 5 号 p. 239

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ChatGPTが世に出た当初,私も含め多くの研究者は「面白いおもちゃが出てきたな」程度の認識だったと思う.試しに専門的な質問をすると,もっともらしい嘘ばかり.存在しない論文を堂々と引用し,計算は間違いだらけ.「何の役に立つんだろう,これ」と思ったりした.ところが気がつくと,今では論文の英語添削から始まって,もはや日常業務に欠かせないツールになっている.私なんか,日々進化するAI技術になんとかついていこうと課金しまくっている始末だ.ChatGPT Plus,Claude Pro,Gemini Advanced…月が変わるたびに「今度はこっちが良いらしい」と課金対象を変えている.わずか2年足らずで,AIが研究者の日常をここまで変えるとは予想していなかった.

大学教員が共通で頭を悩ませているのは,学生のレポートでのAI使用だと思う.彼らにとって,AIを使うのは検索エンジンを使うのと同じ感覚なのだ.入試の小論文でも同様の問題が起きている.もう止めようがない状況になっている.禁止するのが現実的でないなら,AIとの付き合い方を教育に組み込むしかないのかもしれない.「AIを使って調べた情報をどう咀嚼するか」「AIの回答をどう検証するか」といったリテラシー教育が重要になってくる.

研究費申請の世界でも,AI活用が急速に進んでいる.アイデア出しから申請書の執筆まで,もうみんな使っている.正直なところ,これはそれほど悪いことではないと思っている.少なくとも誤字脱字がなくなり,変な日本語もなくなる.ただ,みんなが同じようなAIツールを使えば,申請書の質が均質化し,独創的なアイデアを見分けるのが困難になるかもしれない.いっそのこと審査もAIでやってしまった方がいいのかもしれない.人間の審査には,どうしても主観や人間関係が入り込む.AIなら純粋に内容だけで判断してくれるかもしれない.

結局のところ,AI技術の進歩は止まらない.変化を嘆くよりも,上手に活用する方法を考える方が建設的だ.研究者としては,AIを「便利な道具」として使いながらも,「考える力」は自分で維持することが重要だと思う.AI時代の研究者として,便利さを享受しながらも人間らしさを失わない.そんなバランス感覚が求められている今日この頃である.

最後に告白すると,実はこの文章も….

 
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