生物物理
Online ISSN : 1347-4219
Print ISSN : 0582-4052
ISSN-L : 0582-4052
総説
タンパク質構造の進化を実験的に再現する
八木 創太
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 65 巻 5 号 p. 243-247

詳細
Abstract

セントラルドグマに関連する多くのタンパク質は多様なβバレル構造を構成要素としている.これらは部分的な類似性があることからこれまで進化的関連性が示唆されてきた.一方,著者らは,その進化の実験的再現に取り組み,4つのβバレル構造が分岐進化してきた可能性を見出したので,本稿で紹介する.

Translated Abstract

Proteins involved in the central dogma frequently contain small β-barrel structures with different folds, such as DPBB conserved in RNA polymerases and RIFT, OB, and SH3 conserved in ribosomal proteins. Although previous studies have suggested the ancestral form and evolutionary relationships between these β-barrel folds based on their partial sequence and structural similarities, no experimental evidence has been provided until recently. Recent studies reconstructed a putative ancestral DPBB protein with a simplified sequence and experimentally confirmed that it can be converted to different β-barrel folds. These experiments imply that the four β-barrel folds evolved from a common ancestral protein through the intermediary fold, DZBB.

1.  セントラルドグマ関連タンパク質における多様なβバレルフォールド

生命は遺伝情報であるDNAからRNAへと情報を「転写」し,機能性分子であるタンパク質へと「翻訳」を行う.この分子生物学のセントラルドグマはその詳細なメカニズムが解明されつつある一方,どのようにして誕生したかは謎のままである.

セントラルドグマに関わるタンパク質は多様な形を持ち,一部は非常に巨大で複雑な構造を持つ.ただし,興味深いことにこれらのタンパク質では共通して小型のβバレル構造が保存されている.例えば,RNAポリメラーゼのコアドメインを構成するDouble-psi β-barrel(DPBB)1) フォールド,翻訳因子EF-Tuやリボソームタンパク質L3を構成するRIFTフォールド2),また,リボソームタンパク質L2などを構成するOBやSH3フォールド3)が挙げられる.これらの4つのβバレルフォールドは,その部分的な構造および配列類似性から進化的関係性の推論が行われてきた2)-4).しかし,これらの進化仮説は実験的な検証がなされていないため,それぞれのフォールドがどのように生じたのかは謎のままであった.

そこで,我々はこれら4つの多様なβバレルフォールドの古代型を再現し,さらにはその進化的関係性を実験的に検証してきた5),6).本総説では,これまでの実験結果を紹介するとともに,セントラルドグマに関わるタンパク質がどのように誕生してきたかを議論する.

2.  RNAポリメラーゼの起源となった古代DPBBの復元

RNAポリメラーゼのコアドメインを構成するβバレル構造DPBBは活性部位の足場となっている1)図1A, B).さらに,ユーリ古細菌を中心とした古細菌の持つDNAポリメラーゼ(PolD)はRNAポリメラーゼと同じくDPBBをコアとした構造を有する7).このPolDとRNAポリメラーゼの構造を比較すると,コアとなるDPBBドメイン以外の領域では顕著な類似性は見られないことから,核酸を重合する触媒反応はDPBBを足場として生じてきたと考えられてきた7).また,DPBBドメインは他にもAspartate decarboxylase,Formate dehydrogenase,分子シャペロンVCP等に含まれていることから,多様な酵素の誕生に利用されてきたと推定されている8)

図1

古代DPBBフォールドの進化の再現.(A)RNAポリメラーゼ.DPBBドメインは緑と黄色で示す.(B)RNAポリメラーゼのDPBBドメイン.それぞれのββαβユニットを緑と黄色で示す.(C)完全2回繰り返し型DPBB.(D)断片化ペプチド.

DPBBの特筆すべき特徴に内部の擬似的な2回繰り返し構造が挙げられる(図1B).DPBBは80残基程度の長さであり,6つのβストランドと2つのαヘリックスから構成されているが,N末端側のββαβユニットがC末端側のββαβユニットと類似性が高い.このような特徴から,DPBBは約半分の40残基程度の短いペプチドダイマーから,遺伝子重複と融合を経て現代のDPBBの形へと進化してきたと考えられてきた8).すなわち,核酸重合酵素の起源は40残基程度のペプチドに端を発するという説だ.そこで,我々はこの進化プロセスを遡るようにしてDPBB進化の実験的再現に取り組んだ.

出発材料として超好熱性古細菌であるMethanopyrus kandleriAeropyrum pernixが持つ分子シャペロンVCPのDPBBドメインを利用した.これらは天然のDPBBタンパク質の中でもN末側とC末側の配列同一性が高く(42%, 45%),祖先の完全2回対称DPBBの配列的特徴を受け継いでいると推定される.これらのDPBBドメインはVCPタンパク質より抽出しても安定で,X線結晶構造解析からもDPBBフォールドを維持していることが確認できた.

次に,これら天然のDPBBタンパク質を基に完全2回繰り返し型DPBBを設計した.設計には,以下の3つの独立した手法を用いた.1つ目は,上記の2種以外の古細菌由来VCPタンパク質のDPBBドメインにおいてN末側とC末側の配列で高い相同性を示す残基を参考にした配列設計手法である.2つ目は進化系統関係を考慮した計算科学的手法.3つ目はタンパク質構造の柔軟性を考慮した計算科学的手法である.これらの設計により計13種類の変異体を作成し,そのうち10個はフォールドし,6つの変異体についてはX線結晶構造解析によりDPBBフォールドを維持していることも確認できた(図1C).続いて,この完全2回繰り返しDPBB変異体の単一のββαβユニットから構成される断片化ペプチドmk2hを合成した.このmk2hはホモダイマーを形成し,2本のペプチドが絡み合ってDPBBフォールドを維持していることもX線結晶構造解析により確認できた(図1D).これらの結果は,古代のDPBBフォールドは約40残基程度の短いペプチドダイマーにより構成され,遺伝子重複と融合の結果現代のモノマー型のDPBBへと進化したという仮説を裏付けるものである.

3.  7種類のアミノ酸でDPBBフォールドを構築

現代のタンパク質は20種類のアミノ酸で構成されているが,各種アミノ酸を生合成する代謝系が未熟な初期生命においては20種より少ないアミノ酸でタンパク質を作っていた可能性がある9).そのため,タンパク質の合成に最低何種類のアミノ酸が必要かはタンパク質誕生の謎を探る上で重要な問いだと言える.上記で作成したホモダイマー型DPBBのmk2hは13種類のアミノ酸だけで構成されていた.そこで,より少ないアミノ酸種でもDPBBフォールドを作れるかを検討した.最も少ない7種のアミノ酸だけで構成された変異体mk2h_ΔMILPYSは緩衝液中ではランダムコイルとなっていたが,マロン酸やリンゴ酸を含む溶液条件では結晶化し,ホモダイマー型のDPBBフォールドを形成することを確認できた.この結果は,古代のDPBBタンパク質が誕生するためにはたった7種類のアミノ酸(Ala, Gly, Val, Asp, Glu, Lys, Arg)があれば十分であったことを示唆する.

これら7種類のアミノ酸のうち,Ala,Gly,Val,Asp,Gluの5つは非生物学的に容易に合成可能であり,また隕石にも多く含まれるため,古代地球環境においても豊富に存在したであろうと推定されている10),11).一方,LysとArgは正電荷アミノ酸であり負電荷を持つDNAやRNAとの相互作用には不可欠なアミノ酸である.また,RNAが遺伝分子としてだけでなく機能分子としても役割を担っていたというRNAワールド仮説は最も支持される原始生命誕生のシナリオであることを考えると,RNA分子と相互作用しやすい正電荷アミノ酸も進化の早い段階でタンパク質合成に利用されていた可能性が高い12).そのため,このDPBBは限られたアミノ酸のみを用いていた古代生命でも合成できそうなタンパク質構造だと言える.

4.  DPBBとRIFTフォールドの進化中間体となる新規βバレルフォールドの発見

以上の研究では単純で短い配列でもホモダイマーとなりDPBBフォールドを作れることが分かった(図2A).では,この祖先型DPBBフォールドから他のβバレルフォールドへの進化を再現できるだろうか?RIFTフォールドは,DPBBと同じく2つのββαβユニットからなる擬似的2回繰り返し構造を持つことから,その祖先は半分のペプチドホモダイマーであったと推定されている(図2B).このββαβユニットのホモダイマーから誕生したという共通性から,DPBBとRIFTは共通祖先を持つ姉妹タンパク質だと考えられてきた2)図2A, B).では両者はどのようにして異なる構造に進化したのだろうか?これを明らかにするため,RIFTにおいて特異的に保存されている5残基を単純な配列からなるホモダイマー型DPBB変異体mk2h_ΔMILPYSへと導入し,キメラタンパク質Ph1を設計した.このPh1はAlphaFold2による構造予測では,ホモダイマー型のRIFTフォールドになると予測された.円偏光二色性測定およびゲル濾過法でPh1の構造を解析したところ,フォールドしていることが確認でき,結晶形成も認められた.Ph1の結晶構造解析を進めるにあたり,AlphaFold2で予測したRIFT型のモデル構造を用いて分子置換を行ったところ,位相決定に成功し分子構造も解くことができた.ただし,予想と反してPh1の最終的な結晶構造はRIFTでもDPBBでもない新しいホモダイマー型のβバレルフォールドであった(図2C).β1とβ2を繋ぐループ領域はDPBBフォールドであればψループ(図2A),RIFTフォールドではβヘアピン(図2B)となるが,この新しいβバレルではループコースターのように1回転するループ構造を持ち,トポロジー図で見るとギリシャ文字のZetaのような形になっていた(以降Zeta-loop;図2C, D).そのため,この新規フォールドをDouble-Zeta β-barrel(DZBB)と名付けた.このDZBBフォールドの発見は,DPBBとRIFTのフォールド進化の過程で現代には残っていないDZBBフォールドが中間状態としてあった可能性を示す.また,面白いことに結晶中でDPBBフォールドを示したmk2h_ΔMILPYS変異体は,結晶化条件が異なるとDZBBの形も取りうることも分かった.すなわち,DPBBとDZBB間のフォールド遷移は突然起こるのではなく,両フォールドを取りうるmetamorphic様の中間体を介して徐々に進行したと推定される.

図2

DPBBとRIFTフォールドのトポロジーおよび新規βバレルフォールドDZBBの構造.(A)DPBB,(B)RIFT,(C)DZBBホモダイマーのトポロジー.3者で特に異なるβ1-β2のループはピンクで示す.(D)Ph1の結晶構造.文献6より改変.

もしDPBBとRIFTの進化の間にDZBBが介在するのであれば,DZBBからRIFTへの進化も容易に起こるはずである.そこで,DZBBフォールドを取るPh1を材料としてRIFTフォールドへの変換を試みた.DZBBとRIFTのホモダイマー構造を見ると,両者の二次構造のパターンはほぼ同じであり,異なる点はβ1とβ2を繋ぐループ構造のみである(DZBBではZ-loop,RIFTではβヘアピン;図2B, C).そこで,DZBBフォールドを取るPh1のZ-loopの6残基からなる配列をβヘアピンを取りやすい2残基からなる配列13)へと改変した.この変異体の構造解析を行ったところ,予想通りホモダイマー型のRIFTフォールドを形成していた.つまり,限られた遺伝子変異のみでDZBBはRIFTへと変換可能である.これらの結果から,DPBBとRIFTはDZBBという今はないミッシングリンク構造を介して分岐進化した姉妹タンパク質だと推定できる.

5.  DZBBからOBおよびSH3フォールドへの進化を再現

また,非常に興味深いことに,我々が発見したDZBBフォールドは,RIFTフォールドだけでなく,多数のリボソームタンパク質(L2,S12など)で保存されているOBフォールドとも高い構造的類似性が見られた.OBフォールドは基本的に5つのβストランドからなるが,古代のOBタンパク質は5つ目のβストランドを欠いた4つのβストランドをコアフォールドとしたと考えられている3)図3A左,破線で囲った部分).リボソームタンパク質L2のOBドメインとDZBBのモノマー構造(図3A右)を重ね合わせると,3つのβストランドはよく重なる.そのため,OB-DZBBフォールド間の進化的関係性を検証するために,キメラタンパク質を合成した(図3B).このキメラタンパク質はOBフォールドを取ることをX線結晶構造解析により確認できた(図3B右).さらに,このOB-DZBBキメラタンパク質を,DZBBフォールドを持つPh1に類似した配列へと段階的に改変していくと,7残基からなる1つの配列挿入と5つの置換変異を加えるだけで,ホモダイマーのDZBBフォールドへと変換できることが分かった.この結果は,DZBBフォールドはDPBBとRIFTフォールドの進化を仲介するだけでなく,OBフォールドへも繋がる進化の分岐点であった可能性を示す.

図3

DZBB,OB,SH3フォールドの変換.(A)(左)リボソームタンパク質L2のOBドメインのトポロジー.β1-4はコアフォールドであり,破線で示す.(右)DZBBモノマーのトポロジー.(B)OB-DZBBキメラタンパク質.(C)OB-DZBBキメラタンパク質のC末端にあるβ4を切り取り,短いリンカー配列でN末端に連結することで循環置換させ,SH3タンパク質に変換.BとCの右側はそれぞれの結晶構造を示す.文献6より改変.

また,SH3フォールドも多様なリボソームタンパク質や翻訳因子に含まれるβバレル構造である.このSH3とOBフォールドの間には部分的類似性が認められ,両者は末端にある1つ分のβストランドが循環置換変異により生じたと考えられてきた3),14).しかし,この仮説もこれまで実験的な検証がなかった.そこで,我々が作成した4つのβストランドからなるOB-DZBBキメラの4本目のβストランドをN末端へと移植し循環置換変異体を構築した(図3C).この変異体はSH3フォールドを形成することをX線結晶構造解析により確認できた(図3C右).つまり,OBとSH3フォールドも同一祖先から分岐進化した姉妹タンパク質である可能性を実証することができた.

6.  まとめと展望

以上の研究は,セントラルドグマ関連タンパク質を構成する4つのβバレルフォールド(DPBB, RIFT, OB, SH3)は少ない遺伝子変異により変換可能であることから,分岐進化の末に誕生してきた姉妹タンパク質群である可能性を示すものである(図4).これらのフォールドの変換は多くの変異を必要とせず容易に起こりうることを考慮すると,この分岐進化は生命初期進化のごく短い期間の間に完了していたのかもしれない.

図4

セントラルドグマを構成するβバレル構造群の進化ネットワーク.

また,これらのタンパク質の進化ネットワークは,今はないDZBBという進化のミッシングリンクを発見することで初めて再現することができた.このDZBBフォールドはAlphaFold2などの最先端の構造予測AIでも予測できなかったことを考えると,更なるタンパク質進化過程を解き明かしていくためには,バイオインフォマティクスだけではなく,実験による古代タンパク質の再現および解析が必須であると考えられる.

文献
Biographies

八木創太(やぎ そうた)

早稲田大学人間科学学術院講師(任期付)

 
© 2025 by THE BIOPHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
feedback
Top