生物物理
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海外だより
海外だより
~若手(の会)の皆さんにむけてFromカナダ~
杉浦 雅大
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2025 年 65 巻 5 号 p. 289-290

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はじめに

皆さん初めまして.またはお久しぶりです.以前生物物理若手の会で活動しておりました,杉浦雅大と申します.この度は,これまで読み手として憧れていた海外だよりを執筆する機会をいただき,大変光栄に思います.私が初めて海外だよりを読んだのは学部4年生のときで,生物物理学会の先輩方が海外で活躍されている姿や,研究生活の実情を知れたことで,海外への憧れを抱いたことを今でも覚えております.そんな私ですが,現在は光栄なことに海外特別研究員として採択いただき,カナダのトロント大学・Ernst研究室にて,学生時代から変わらず光受容膜タンパク質であるロドプシンの研究を続けております.一方で,汗水垂らして運営していた若手の会を離れてしばらく経ち,少々寂しさも感じる今日この頃です.というわけで,今度は私が魅力的な海外だよりを提供(できるかな……)することで,若手(の会)の皆さんへの久方ぶりの挨拶と共に,海外での研究生活に興味を持ってもらえたらいいなと思い,筆を執っております.そして,この海外だよりを見たあなたが,将来の海外だよりの執筆者となり,良いサイクルができることを願っております.

決断

皆さんが海外での研究を考える際,何に気を付ければよいでしょうか.私がこれまでを振り返って重要だと感じた項目を記載しておきますので,海外に興味を持っている方の参考になれば幸いです.

まず1つ目は,何といっても研究の対象と手法です.私が学部生のときは,自分の研究室の研究対象・手法を理解することで手一杯でしたが,世の中には多種多様な研究対象・手法が存在します.まずは,学会や論文等で気になったことについて調べ,今あなたが扱っている研究対象・手法に何を足したらオンリーワンの研究ができるかを考えてみましょう!

2つ目は,研究室内の環境です.ここでいう環境というのは,実験機器等ではなく人間関係についてです.長く共に研究するにあたり,PIやラボメンバーとのコミュニケーションは非常に重要です.私は,国際学会に参加した際にErnst教授に何度かお話ししたこともあって,結果としてとても良い研究室,ラボメンバーと巡り合い,共に研究ができています.皆さんも積極的に国際学会に参加し,余裕があれば学会前後で研究室を訪れてみるとよいと思います!

3つ目は地政学的な安定性と物価です.日本では治安が良すぎて考えることもありませんでしたが,海外に視野をむけると各所で戦争や紛争が発生し,それに対するデモや衝突が頻発しています.カナダは世界的に安全とされていますが,デモは各所で発生していますし,年々発砲事件の報告例が増加しており,大麻が合法なこともあって,街中を歩いているとよくきつい香りが鼻を突きます.また,世界では日本以上に生活コストが上昇しており,特にトロントの家賃は非常に高いです.研究とは直接関係はありませんが,研究に集中するためには重要ですので,頭の片隅に入れておくとよいでしょう.

捉え方によっては皆さんを少々不安にさせてしまったかもしれませんが,どんな国であっても素晴らしい研究が行われていることは確かですし,やってやれないことはないので,上記ファクターを参考にして行先を決めるとよいと思います! もちろんカナダも研究面・生活面において,危険な場所を避ければ日本に引けを取らず過ごしやすい環境ですよ!

カナダ(トロント)の研究環境

私が日本にいたときは,自ら行動しない限り大学の枠を超えた交流機会はなく,それこそ若手の会が若手研究者同士の広いつながりを育んでくれました.一方で,ここトロントでは,大学間の交流が盛んであり,研究会やセミナーが毎週のように開催されています.また,月に1回Postdoc Coffee Hourという集会が開催され,分野の全く異なるポスドク同士がコーヒーを片手に活発に議論をしています.このような集会はポスドクの絶対数が多いからこそできる部分もあると思いますが,日本でも同様の集会を月に1回開けば,研究者同士のつながりがより広く深いものになるのではないかと常々感じています.そして,このような交流の場が多いためか,研究室間の共同研究が非常に多いです.確かに日本も共同研究は盛んに行われていますが,カナダでは専門性の尊重と研究の広がりをより意識しており,何か新しいことを見つけたら,すぐに各方面の専門の研究者と連絡を取り,共同研究を考え始めます.逆に,各方面からいろいろな共同研究の話が来ることも事実で,すべてに対応していたら手が足りないので取捨選択も必要ですが,研究者にとっては恵まれた風土・環境に思います.

また,研究者の全体的な雰囲気ですが,非常に牧歌的かつ友好的です.これは,私生活に関してもいえることですが,国民性が移民に対して非常に寛容であり,困っているときは必ず助けてくれます.実際,私の研究も紆余曲折あり,かなり苦しみましたが,ラボメンバーの助けによって徐々に結果は出つつあります.以上の経験もあり,日本以上に研究室メンバーの各研究テーマに対する一体感を感じています.そして,そんな研究室メンバーには日々感謝するばかりです.

加えて,カナダの研究者はワークライフバランスがしっかりと取れた研究生活を送っており,日本にいた際に感じていた焦燥感は微塵も感じられません.かといって仕事がおざなりというわけではなく,コロナ禍で急速に広がったリモートワークと最先端の装置を活用することで,スピーディに研究を進めています.そのため,日が暮れる頃にはほとんどの研究室の電気が消えるため,光受容体を扱う私としては,共同研究先に赴いても夜に実験すれば大規模な暗室のセッティングをする必要がないので快適に実験を行うことができ,ありがたい限りです.

カナダでの日常生活

カナダ人の休日は,主要都市トロントといえど街中にたくさんある広い公園でのウォーキングやランニング,キャッチボールであったり,車で30分も走れば現れる大自然の中でのキャンプであったりと自然と触れ合う機会が多いです.研究を進めていく中で壁にぶつかったときも自然豊かな郊外をサイクリングしてもよし,電車に揺られて遠出してもよしです.また,光受容体を扱う者としては実験の大敵であり,日本では耐え難い暑さをもたらす太陽も,日照時間が少なく気温が低い冬場のトロントでは気分をリフレッシュさせてくれる偉大な存在に感じられます.

2点注意することは,トロントには“トロントタイム”という概念が存在し,大体のことが10分ほど遅延します.セミナー時間然り,フライト時間然り.私は入国初日に経由空港でこのカナダの国民性ともいえる遅延に冷や汗をかいたため,旅行や学会等で訪れる際は気を付けておくとよいでしょう! また,北米人はエビの香りが苦手なので,菓子折りにはエビせんべいを選択しない方がよいでしょう……(実体験より)

Oliver P. Ernst教授宅でのBBQの様子とグループフォト.集合写真・一番右が筆者,左から7,8人目がErnst夫妻.

若手の皆さんにむけて

学部2年生から博士課程卒業まで,夏の学校校長や会長として生物物理若手の会に携わってきましたが,海外にきてみて改めて,生物物理学会・ひいては日本の若手の皆さんは精力的でポテンシャルが高いと感じました.そんな皆さんであれば,必ず海外でも活躍できます.もし,海外での研究に興味を持っている,もしくは持ってもらえたなら,心から応援させていただきます.必要であれば微力ながら助力もさせていただきたいと思います.この拙文が,志高い皆さんの一助になれば,至極幸いです.

謝辞

最後に日本学術振興会ならびに,Oliver P. Ernst教授,神取秀樹特別教授をはじめ温かく支えていただいている方々,家族に心より感謝いたします.

P.S.

海外特別研究員のカナダ渡航例は少ないため,納税やその他諸々について質問等ございましたらお気軽にご連絡ください.

 
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