2025 年 65 巻 5 号 p. 291
本書「Evolution Seen from the Phase Diagram of Life」は,「生命とは何か」「なぜ秩序を保ちつつ進化できるのか」という根源的な問いに,物理学的な視点から迫ろうとする一冊である.議論の中心に据えられているのは「生命の相図(phase diagram of life)」という概念である.これは,ヌクレオチドの組成比を軸とした空間上に様々な生物のゲノムをプロットし,その生物の進化的位置や分類学的関係を示そうとするものである.
Part Iでは,個々の遺伝子の機能を調べるボトムアップ的な解析だけでは生命全体を理解するには限界があると指摘し,ゲノム全体の構造や規則性を俯瞰するトップダウン的アプローチの必要性が提起される.そして,このアプローチの鍵として「生命の相図」の概念が導入される.
Part IIでは,ゲノムに書き込まれた情報からタンパク質がどのように構築され,多様な機能を果たすに至るかを解説し,従来のボトムアップ的アプローチの成果がまとめられる.
Part IIIでは,いよいよゲノム全体を俯瞰するトップダウン的アプローチが本格的に展開される.全生物において膜タンパク質の割合がほぼ1/4であることや,進化における変異が完全にランダムではないことが示される.さらに,コドンの第1文字と第2文字のヌクレオチド組成には全生物に共通する顕著な偏りがあり,それをヌクレオチド組成空間にプロットすると,すべてのゲノムが極めて狭い領域に集中して分布することが明らかにされる.この領域は「生命の存在可能領域」と捉えられ,ヌクレオチド組成空間が生命の相図として機能することが示される.進化は単なる偶然の積み重ねではなく,特定のパターンに従って進んでいることが見えてくる.
Part IVでは,生物が新たな種へ分かれていく過程や,「原核生物と真核生物」といった大きな分類の違いなどが,生命の相図によって,どのように理解されるかが示される.さらに,COVID-19ウイルスの進化過程が,生命の相図上でどのように捉えられるかも取り上げられ,その応用可能性も感じさせる内容となっている.
全体を通して,著者らの発想の豊かさと,生命現象を俯瞰する視点に感服する.生物学と物理学の融合を感じさせる本であり,生命のあり方を新しい角度から考えたい人にとって,刺激的な一冊である.
