2025年度より,東北支部長を引き受けることになりました柴田穣(東北大院理)です.前支部長の中林先生から次期支部長への就任を依頼された際,学生時代からお世話になっている生物物理学会に少しでも恩返しを,との考えが一瞬よぎり,気が付けば支部長という重責をお受けさせていただくこととなった次第です.中林先生には,引き続き支部会幹事としてご尽力いただきます.また,東北大工学部応用物理の鳥谷部祥一先生(幹事)と,東北大理学部物理の佐久間由香先生(会計幹事)の2名の方に東北支部の役員として加わっていただくことをご快諾いただきました.今回まずは,私を含めた新役員の研究紹介を含めた自己紹介の文章をお送りします.その後に,支部例会や最近の東北大事情について簡単に報告します.
東北支部支部長 柴田 穣(東北大学大学院理学研究科化学専攻)
1995年,それまで物理学会にしか出たことがなかった私は,札幌で開催された生物物理学会の年会に初めて参加し,その熱気に大いに刺激を受けました.その頃私は,nsからmsに渡る広い時間スケールで起こっているタンパク質の構造揺らぎをレーザー分光学で見る,という研究に熱中していました.現在,レーザー分光学を相変わらず使いますが,対象は光合成生物の光反応を解明することへとシフトしています.地球上の酸素はほぼ全て酸素発生型の光合成を行う生物の営みによるのですが,水から電子を引き抜き,酸素を発生させるタンパク質は,実はかなりハードな仕事をしていて,壊れては修復される,というサイクルを繰り返しています.現在の究極の目標は,このタンパク質修復プロセスの現場を見ることですが,そう簡単には行きません.学生たちと格闘する日々を楽しんでいます.学際領域である生物物理の中でも,光合成研究は特に生物学,物理学,化学から農学までが絶妙なバランスで混じりあった超学際的分野と言えます.現在,学生時代は化学が好きではなかった私は,化学専攻で生物物理の研究をしています.残念ながら,生物物理という名称に「化学」が含まれていません.しかし,そもそも化学無くして生物を理解することはできるはずもないのです.そこで,「生物物理」という名称におそらく込められていただろう精神はあえて無視して,生物を対象にした物理化学をやるのだと,学生たちには言っています.
幹事 鳥谷部祥一(東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻)
東北大学工学研究科応用物理学専攻の鳥谷部(とやべ)祥一です.生体分子モーター(F1-ATPase)の1分子実験やDNAの情報複製実験に加え,微小粒子を使った非平衡熱力学等の理論検証などを中心に研究を進めています.最近では,バクテリア遊泳集団をアクティブマター的な観点で調べたりもしています.非平衡熱力学や情報熱力学に基づいた解析により,「普通には測れない量を測れるようにする」ことに特に興味を持っています.研究以外では,研究室の居室で皆で料理を作ってパーティをするというのが楽しみのひとつです.他大学からの進学はもちろん大歓迎ですので,興味のある方はぜひお気軽にご連絡ください(2026年4月に本学理学研究科物理学専攻に移籍しますのでご注意ください)!
会計幹事 佐久間由香(東北大学大学院理学研究科物理学専攻)
東北大学大学院理学研究科物理学専攻の佐久間由香です.「生きていることを物理の観点から理解するには?」をテーマにした研究を進めています.最近は細胞膜の流動性に着目し,生細胞と非生細胞における膜粘度(膜の流れやすさを示す指標)の差から,生きていることを特徴づける物理量を抽出することに挑戦しています.私自身は流体力学や熱統計力学をベースとした物理学的解析を主軸にしていますが,生物や化学,薬学,医学,工学など,多様な分野の研究者と共通の関心を持てる点に生物物理の魅力を感じています.ぜひ,さまざまな視点を持つ皆さんと議論できればうれしいです.
すでに北海道支部だよりで報告がありましたので,簡単に報告します.今回は2025年2月21日の開催となりました.今回もオンラインによる北海道支部との合同開催です.私の所属する専攻もそうでしたが,多くの専攻では修士論文最終審査直後のタイミングにあたっていたと思います.そういう訳で,特に修論発表を終えたばかりの大学院生は発表しやすいタイミングだったのではないでしょうか.毎年,どうやって支部会を盛り上げるかは悩みの種と聞いております.そもそも,生物物理学会に所属している研究者は,私も含め他の複数の学会にも所属している方が多く,そんなにいろいろ出席してられないというのが正直なところなのです.北海道支部とのオンラインによる合同開催は,いいアイデアではあります.学会の数はどんどん増えているので,今後は他学会の支部会との合同開催とかも考えていく必要があるのかもしれません.ただ,分野がひろがりすぎていて,議論が深まらないという課題は支部会のあるあるでしょう.テーマを絞って,学生からの基本的な質問もありで徹底的に時間をかけて議論する,研究発表というよりはセミナー,勉強会,のような形も模索すべきかもしれません.
さて,支部会の内容ですが,私個人としては今井正幸先生の特別講演「ソフトマター物理で繋ぐ物質と生命」が特に印象深かったです.ソフトマター物理学の技術・知見を駆使して,自己増殖する系(≒生命)を実現しようというアプローチは,純粋な科学として面白かったし,さらにこの先どこまでできるのだろう,と考えさせられました.今後,今井先生は全く別のことを始めるそうなのですが,ぜひ発表されていた研究が発展した形も見てみたいものです.
私の所属する東北大の事情について書かせていただきます.とは言っても,国際卓越研究大学採択後の変化に関することではなく,東北大のキャンパス事情についてです.東北大の理,薬,工,農学部がある青葉山キャンパスは,標高203 mの青葉山の中腹にあります.ご存じの方もおられると思いますが,近年キャンパス付近ではツキノワグマの目撃が頻発しており,そのたびに熊警戒アラートが大学から出されます.そのため,青葉山山麓にある川内キャンパスと青葉山キャンパスをつなぐ自然観察路(登山道みたいなものです)はここ数年通行禁止となっていました.しかし,最近この自然観察路の通行が日没までの時間に限られますが解禁され,その代わりに熊除けの鐘が設置されました.ツキノワグマ以外にも,イノシシや時には特別天然記念物のニホンカモシカにも会える環境は,この地域の自然が豊かであることを示しています.人間と野生動物はどう折り合いをつけて棲み分けるのか,今後の重要な研究課題となるでしょう.
