2026 年 66 巻 1 号 p. 52-53
2025年度より2年間,中部支部長を務めさせていただきます名古屋大学の内橋貴之です.幹事の小嶋誠司先生(名古屋大院理)と中村彰彦先生(静岡大院農),会計の槇亙介先生(名古屋大院理)と共に中部支部会を運営してまいります.本支部だよりでは,今年3月に開催された討論会の報告に加え,中部支部管内にある生物物理学関連の特色ある研究拠点として,自然科学研究機構生命創成探究センター(ExCELLS)のユニークな取り組みや運営について紹介していただきます.
令和6年度の中部支部討論会は,2025年3月18日に名古屋市立大学薬学部・宮田専治記念ホールにて開催いたしました.名市大薬学部での開催は今回が初めてでしたが,当日は朝から多くの参加者が集まり,終日にわたり活発な討論が展開されました.今年は合計102名の方にご参加いただき,口頭発表21件,ポスター発表36件と,例年同様に多彩な研究分野が集まる中部支部らしいにぎやかな会となりました(図1).

口頭発表では各発表に対して多くの質問が寄せられ,分野横断的な議論が展開されました.ポスター会場でも,学生や若手研究者を中心に丁寧で熱心な議論が展開され,研究の背景や手法にまで踏み込んだやり取りが見られました.会場全体が終始活発な雰囲気に包まれ,討論会として非常に充実した時間になったと感じています.夕刻からのカフェテリアでの懇親会も大変盛況で,研究室や世代を越えた交流が活発に行われ,参加者同士が親睦を深める良い機会となりました.こうした交流の雰囲気は中部支部の大きな魅力であり,今回もその良さが十分に発揮されていたように思います.
今年度も,口頭発表21件の中から学生・若手研究者を対象に最優秀発表賞の選考を行い,厳正な審査の結果,古池美彦さん(分子科学研究所・助教),伊藤侑真さん(名古屋工業大学・修士1年),松島啓介さん(金沢大学・修士2年)の3名が受賞されました.いずれの受賞者も各自の専門分野で結果・発表ともに際立つ内容でした.
本討論会の開催にあたり,名古屋市立大学薬学部,また自然科学研究機構生命創成探究センターのラボメンバーには,会場準備から当日の運営までご協力を賜りました.また,中部支部の運営面では,令和6年度支部長の古谷祐詞先生,幹事の内橋貴之先生,会計をご担当いただいた錦野達郎先生に,多くの場面でご助力いただきました.ここに記して,深く感謝申し上げます.さらに,ご参加いただいた皆様のお力添えにより,今年度も意義深い討論会を問題なく実施することができました.心より御礼申し上げます.
ExCELLSは,2018年に設立された自然科学研究機構直轄の研究組織です.ExCELLSでは,「生きているとは何か」という人類共通の根源的な問いに向き合いながら,生命の仕組みを観察する新たな技術の開発,多様なデータ群に潜む意味の解読,そして合成的・構成的アプローチを通じた生命の基本原理の検証に取り組んでいます.このような学際的課題に応えるため,分光解析,顕微鏡技術,計算科学,ロボティクスなど,多様な研究手法を組み合わせることがExCELLSの大きな特徴となっています.
ExCELLSでは,先進的生命科学研究を推進するために「先端共創プラットフォーム」を整備しています.この中で,ExCELLSメンバーと外部研究者が協働して取り組む4つのチーム型プロジェクト(物質-生命の境界探査,オルガネラの時空間アトラス編纂,生命体のシミュレーション,ネオ生命体の創成)が展開されています.一方,国内外の大学・研究機関との組織間連携を強化するため,「連携強化プラットフォーム」も発足し,組織横断的な研究体制の構築を加速しています.糖鎖生命科学ユニットでは,共同利用・共同研究拠点「糖鎖生命科学連携ネットワーク型拠点(J-GlycoNet)」の活動を,東海国立大学機構糖鎖生命コア研究所や創価大学糖鎖生命システム融合研究所と連携して推進しており,生命科学分野で初となる大規模学術フロンティア促進事業「ヒューマングライコームプロジェクト」を進めています.加えて,東京大学物性研究所が設立した「マルチスケール量子-古典生命インターフェース研究コンソーシアム」には,名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所や名古屋工業大学オプトバイオテクノロジー研究センターとともに参画し,量子科学と生命科学の接点を探る新しい研究領域を開拓しています.
ExCELLSでは2022年に,最新式のクライオ電子顕微鏡システムとして300kVクライオ電顕Krios G4およびトモグラフィ試料作製装置Aquilos2(Thermo Fisher)を導入し,これまで構造解析が困難であったタンパク質超分子複合体や,その「その場」構造解析を可能にする研究支援を開始しました.さらに,これらをExCELLSの生命動態機能解析システム(高磁場NMR,分子間相互作用解析装置,高速AFM,Native MS,大型計算機)と連携させることで,巨大タンパク質複合体の構造解析から相互作用解析,動態解析,動力学シミュレーションに至るまでを一貫して支援できる,国内でもユニークな共同研究体制を提供しています.
こうした取り組みは文部科学省の生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)にも採択されており,現在では年間50件を超える動的構造解析支援を実施しています.加えて,これらの装置を活用したトレーニングコースやワークショップを年に数回開催し,若手人材の育成にも努めています(図2).

このように,ExCELLSは中部地区の研究機関とも緊密に連携しつつ,世界に向けて開かれた“知の梁山泊”としての役割を果たしています.ExCELLS創設の背景には,研究装置の大型化とデータの爆発的増大という生命科学の潮流があり,その課題に応えるための基盤整備が不可欠でした.ExCELLSでは,実験操作の遠隔化や自動化に向けた取り組みなど,次世代型の共同利用研究のあり方を模索しています(図3).生命科学がこれから迎える新しい時代に向けて,生物物理学会の皆さまにもぜひExCELLSの活動に加わっていただき,学際的研究の発展と生命の本質に迫る探究をともに進めていただければ幸いです.

ExCELLSの活動の詳細については,公式ウェブサイトをご参照ください.