2026 年 66 巻 3 号 p. 145-148
カブトムシの角は幼虫にはなく,蛹化で出現し,蛹内で鋭い形に変形する.これらを駆動する上皮の変形原理は不明だったが,我々は観察とシミュレーションにより,蛹の角は「折り畳みの形成と展開」,成虫の角は「接着と収縮」により形成されることを示した.この力学的理解は遺伝学的研究を補完するものである.

Male Japanese rhinoceros beetles develop a large, four-branched horn on their head. This horn forms in two distinct steps: first, it appears as a rounded structure during pupation; then, it is remodeled into an angular shape inside the pupa. While these changes are driven by epithelial deformation, their underlying mechanisms remain elusive. Using detailed biological observations and computational simulations based on reconstructed 3D shapes, we found that the pupal horn is generated by “fold formation and unfolding,” and the remodeling is achieved by “adhesion and shrinkage.” These findings provide a mechanical basis for understanding exoskeletal morphogenesis and complement genetic studies.
カブトムシTrypoxylus dichotomus(以下,カブトムシ)は,日本人にとって非常に身近な昆虫である.大きな特徴は,オスが持つ頭と胸の大きな角である.特に頭の角は,先端が四分岐する独特な形状であり,本種が人気の理由の一つである.
私たちは,このカブトムシの角形成を対象に,特に発生過程で生じる変形に注目して研究してきた.本総説では,特にシミュレーションの活用で得られた知見を中心に一連の研究を概観し,今後の課題を考える.
カブトムシは完全変態昆虫であり,卵から孵化した幼虫は2回の脱皮を経て終齢幼虫になり,蛹,そして成虫へと変態する.角に注目すると,幼虫には角は存在せず,蛹になる脱皮で角が初めて出現する.この段階ではまだ丸みを帯びた鈍い形だが,成虫になる脱皮の際にシャープで機能的な形へと変化する(図1).

こうした形態変化は,単層の上皮細胞シートと,それを覆うクチクラにより生じる.特に,脱皮前後の上皮とクチクラの関係は図2のように整理できる.①通常,上皮とクチクラは密着している.②脱皮の準備が始まると,上皮がクチクラから剥離する(apolysis).③その後,細胞分裂などにより上皮が変形し,④上皮が新たなクチクラを分泌する.⑤最終的に古いクチクラが脱ぎ捨てられ,体液の圧力などで上皮とクチクラがさらに変形し,クチクラが硬化する(クチクラの硬化や変形,脱皮のタイミングは前後する場合もある).

このように,外骨格生物の形態形成では上皮とクチクラの変形が重要だが,その変形メカニズムは十分に解明されていない.そこで私たちは,脱皮前後の形態変化を詳細に観察し,力学シミュレーションに落とし込むことで,変形メカニズムの理解を試みてきた.
先述の通り,角は幼虫には存在せず,蛹になる脱皮(蛹化)で突如として出現する.蛹化にかかる時間はおよそ2時間と非常に短く,この短時間で角を一から構築するのは現実的ではない.カブトムシはこの問題を,「角原基(horn primordium)」と呼ばれる構造で解決している.これは,上皮シートにあらかじめ複雑な折り畳みパターンが刻まれた構造であり,展開することで三次元的な角の構造を一気に形成できる.図2と同様に角原基も,剥離した上皮シートに折り畳みができていくことで形成される(図3).

角原基の形状はおおむねキノコ状,大きさは蛹の角の1/6程度であり,折り畳まれた状態では蛹の角と似ても似つかない.では,実際の形は蛹とどの程度異なるだろうか?私たちはまず,この疑問を解決するため,3つの異なる方法―生体での強制的展開(in vivo),摘出・固定標本の物理的展開(in vitro),およびコンピュータ上での仮想展開(in silico)―で角原基の展開を試みた1).結果として,いずれの方法でも,展開後形状は蛹の角とほぼ同じになった(図4).
モデル生物であるショウジョウバエの脚/翅原基も折り畳みを持つが,展開時の細胞変形が全体の変形に寄与することが分かっている.これに対して,カブトムシの角原基は,細胞活動を伴わないコンピュータ上での展開でも蛹の角とほぼ同じ形状となった.つまり,展開時の変形に細胞変形などが寄与せず,折り畳み自体の形態形成への影響を検討できる点で,カブトムシは優れたモデルといえることが分かった.
そこで次に,折り畳みがどのように変形に寄与するのか,コンピュータシミュレーションを活用して解析することにした3).角原基にマーキングを施して展開前後の対応関係を実験的に追跡する方法も検討されたが,技術的に困難であった.一方,コンピュータ上では,メッシュを構成する各頂点を追うことで,対応関係を容易に解析可能である.そのため,シミュレーションは形態変化のメカニズムを解明する上で非常に有効な手段となる.このような利点を活かすため,私たちはさらに,折り畳みを持つメッシュに対して,折り畳みを可視化する手法と,折り畳みの変形における機能を評価する手法を開発した(図5左).解析にあたっては,展開後の形状に基づいて原基をcap,stalk,baseの3領域に分けて検討した(参考:図6).


Capは,角原基ではドーム状で,展開後に四分岐構造を形成する領域である(図5右上).Capの折り畳みを可視化すると,表面には同心半円状,裏面には前後方向に走る平行な折り畳みが存在していた(図5右).次にその機能を解析すると,裏面の折り畳みは,側方への拡大を生じさせ左右に垂れ下がっていた領域を遠位方向に押し上げ,外側の突起形成に寄与していた.一方,表面の同心半円状の折り畳みは,斜め方向に突出することで,内側の突起形成に関与していた(図5右).このように,capでは部位ごとに異なる折り畳みが異なる変形を担い,ドーム状構造から四分岐構造への変形が生じることが分かった(図6“cap”模式図).
stalkは近遠位方向に大きく伸長する領域であり,それに対応して折り畳みは円周方向に走っている(図7).しかし,円周方向の単純な蛇腹折りでは,滑らかな筒状構造を作るのは難しい.高い圧縮率を得るために深い折り畳みが必要となり,展開後に溝が残るためである.そのため,他の折り畳みも利用されていると予想された.そこでstalkをμCTで詳細に観察したところ,波々折りや互い違い折りという特徴的な折り畳みが確認された.これらはいずれも,シート状構造に外力が加わることで自ずと生じるパターンであり(図7),発生プログラムにより能動的に形成されたものではなく,成長に伴って受動的に生じたものと考えられた.つまり,stalkに見られる折り畳みは,capとbaseに囲まれた狭い空間で,シートが異方的に成長することにより,自然に生じた構造であると示唆された.

Baseでは,折り畳みの可視化により折り畳みが腹側寄りに多いことが分かり,その消去により角全体を背側に起き上がらせるのに寄与していることが分かった.つまり,フイゴのように展開されることで,角全体の向きを変えることに寄与していると考えられた.
これらの結果から,角原基から蛹の角への変形で生じる「四分岐の形成」「近遠位方向の伸長」「背側への起き上がり」という変化が,異なる領域の折り畳みにより生じており,折り畳みの形成メカニズムも領域ごとに異なる可能性があることが分かった(図6).
私たちは並行して,角原基の形成過程を生物学的にも解析してきた.その結果,capの折り畳みのパターンとその深さは,それぞれ異なる遺伝子によって制御されており,特に細胞分裂の頻度が折り畳み形成に重要であることが示唆された4).一方,stalkでは細胞分裂の異方性が伸長に寄与しており,平面極性に関わるDachsousタンパク質の機能阻害個体では,原基のマクロ形状に異常が生じ,展開後に太短い形になることが分かった5).さらに,折り畳みの形成箇所に,先行してアクチン集積が見られることから,頂端収縮が折り畳み形成に関わる可能性も示唆された5).このように,折り畳みの展開時と異なり,折り畳みの形成には細胞活動が密接に関わっている.上皮の折り畳み形成に関するモデルはこれまでにも報告されているが6),細胞の挙動や周囲環境,生じるパターンなど,実際の角原基形成をどこまで再現できているかについては,さらなる検討が必要である.
蛹から成虫になる脱皮(羽化)では,丸みを帯びた鈍い形の角が,シャープな形へと変わる.この変形は,脱皮前に蛹の体内で起きる.私たちはこの変形についても詳細な観察と解析を行った7).
まず,変形の様子を凍結切片で観察すると,変形を担う上皮シートが,蛹の角の腹側に偏って分布しており,さらに腹側の面が蛹のクチクラと非常に近接していることが確認された.これは,上皮シートが腹側でクチクラと接着している可能性を示唆していた.
そこで次に,上皮-クチクラ間の接着への関与がショウジョウバエで報告されているDumpyタンパク質に注目した.蛹化直後の個体でRNAi法によりDumpyの機能阻害を行うと,角の先端部が内部に落ち込むような変形が観察された(図8).これは,先端部で上皮とクチクラの接着が失われたことを示唆している.興味深いことに,この変異個体でも腹側の接着は維持されていた.つまり,先端部と腹側の接着は異なるメカニズムによって制御されていると考えられる.また,蛹の角とその内部に形成された通常個体の成虫角(クチクラが既に張った状態)のμCTを用いた定量から,蛹から成虫では表面積で0.2倍,内腔体積で0.5倍に収縮していることが分かっていたが,dumpy機能阻害個体において柄よりも先端部が強く収縮していたことから,上皮シートの収縮が空間的に不均一である可能性が示された.

これらの結果から,「上皮の不均一な収縮」「先端~腹側の上皮-クチクラ間の接着」「内腔体積の減少」が,成虫角の形成に寄与すると考えられた.
そこで,これらの要素を取り入れた力学シミュレーションを構築し,成虫角形成過程の再現を試みた.μCTで取得した蛹の角の形状を初期状態として,近位部は弱く,遠位部は強く収縮するように収縮率を設定した.また,腹側の頂点を固定することで,上皮とクチクラの接着を表現した.結果,図9上段に示すように,シミュレーションで成虫角に酷似した形状を再現でき,上記の要素で成虫角の形を十分に説明できることが分かった.さらに,パラメータ変化時の形態変化から各因子の寄与を検討し(図9下段),上皮の収縮がサイズ減少に,体積減少と腹側の接着が多面体状の形への変形に重要であることを明らかにした.さらに論文中では,このシミュレーションをクワガタの大顎にも適用することで,モデルの普遍性を確認した.

一連の研究により,カブトムシの角形成における変形メカニズムをある程度明らかにできたが,未解明の点も多く残されている.特に,角原基のマクロ形状や折り畳みの形成過程は,上述の通り不明な点が多い.
また,本研究では分子的な機構には踏み込まなかったが,角形成に関わる遺伝子は複数報告されており8),各遺伝子の機能阻害での表現型と変形機構とを結びつけることが今後の重要な課題となる.また,成虫角形成に関しては,プログラム細胞死の収縮への関与が糞虫で示されているが9),その分子機構はほぼ未解明であり,本研究の知見が足がかりになると考えている.
さらに,「折り畳みの形成と展開」と「接着と収縮」という変形メカニズムが,外骨格生物の形態形成にどこまで普遍的に適用できるのかも,今後検証すべき重要な課題と考えている.