蘚苔類研究
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新潟県とその周辺におけるエゾチョウチンゴケとコバノチョウチンゴケ(蘚類)の分布と生態
白崎 仁
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1998 年 7 巻 5 号 p. 139-145

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抄録
蘚類エゾチョウチンゴケとコバノチョウチンゴケはともにコバノチョウチンゴケ属の種で,新潟県とその周辺では,エゾチョウチンゴケは主に佐渡が島北部と内陸の山岳地域に分布し,コバノチョウチンゴケは佐渡が島,粟島,および日本海沿岸沿いの低地に分かれて分布する.エゾチョウチンゴケは,亜高山帯針葉樹林や低温の長く続く風穴地にも多く生育する.多種類の基物に着生し,生育地は比較的多湿である.本種は,県内では温かさの指数が50〜65,最深積雪深2.5m以上,夏季の降水量が550mm以上の環境に最も多く分布しており,雪解け後の生育期間中の気温が低く夏季の降水量が多い環境に適応していると考えられる.そのため,夏季に高温と乾燥の長く続く条件では生育が阻害され,内陸の山岳地域に分布が偏る.胞子体の形成は稀で,900m以上の高海抜地に限られている.胞子体の成熟は夏季で,山岳地域でも比較的気温の高い時期にあたるので,本種は山岳地域の環境によく適応しているものと考えられる.他方,コバノチョウチンゴケは,比較的温暖な佐渡が島ではうす暗いケヤキ・スダジイ林に生育するが,多雪地域の内陸では渓谷のブナ林の急崖上の排水が比較的良い所に生育する.着生基物は主に岩と土上で,生育地は乾燥しがちである.本種は,県内では温かさの指数が95以上で,最深積雪深1.0m以下,夏季の降水量が400-440mmで,降水量の比較的少ない地域に主に分布している.そのため,本種の生育は,冬季でも温暖で長期間の積雪下にならず,乾燥しがちの環境に適応していると考えられる.本種の胞子体は冬から春にかけて発達し,雪が融けた後に成熟する.そのため,多雪条件下での強い雪圧と融雪時の長期間におよぶ多湿は,本種の胞子体の形成と成熟に強く影響する.本種の胞子体の分布が雪の少ない海岸地域に偏るのは,そのためと考えられる.
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1998 日本蘚苔類学会
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