地質調査研究報告
Online ISSN : 2186-490X
Print ISSN : 1346-4272
ISSN-L : 1346-4272
論文
海底堆積物中の白金とパラジウムの存在量とその地球化学的挙動
寺島 滋三田 直樹中尾征三石原 舜三
著者情報
ジャーナル フリー

2002 年 53 巻 11-12 号 p. 725-747

詳細
抄録

日本列島周辺海域(陸源性堆積物),マリアナ海嶺(半遠洋性堆積物),太平洋中央部(遠洋性堆積物)で採取された海底堆積物284試料について,溶媒抽出分離―黒鉛炉原子吸光法によりppbレベルの微量の白金(Pt)とパラジウム(Pd)の正確な存在量を定量し,地球化学的挙動を考察した.比較のため,湖沼堆積物及び堆積岩類も分析した.遠洋性堆積物は,陸源性堆積物に比べ平均値で約3倍のPt, Pdを含有しており,半遠洋性堆積物は中間的な含有量であった.多くの試料は,PdよりもPtに富む特徴が認められたが,赤道付近の生物生産が活発な海域にはPdに富む珪質堆積物が分布しており,生物濃縮の可能性を示唆している.試料を採取した地点の水深とPt, Pdの含有量の間には一定の傾向は存在しないが,堆積速度との間には負の関係があり,堆積速度の遅い海域で高濃度を示す.深海底堆積物におけるPt,Pdの供給源として宇宙物質の影響が指摘されているが,Mn/Pt, Cu/Pt等の存在比は宇宙物質のそれよりも地殻物質に類似している.地殻物質の風化・変質により溶出したPt, Pdが,主として難溶性の酸化物態あるいは還元されて元素態となり,鉄やマンガン等の遷移金属とともに海底堆積物に移行すると考えた.堆積層内におけるPt, Pd等の鉛直分布の特徴から,初期続成作用に伴う移動と濃集の影響は,極く一部を除いて無視できると判断された.これまでに報告されたPt, Pdの地殻存在量(Pt, Pdとも0.4-10 ppb)にはかなりのばらつきが認められるが,本研究で陸源性堆積物,湖底堆積物,堆積岩等合計281試料の分析値から算出した地殻存在量はPt 2.7 ppb,Pd 1.9 ppbである.

著者関連情報
© 2002 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
次の記事
feedback
Top