2024 年 75 巻 5-6 号 p. 167-196
20万分の1海底地質図の作成を目的として,トカラ列島北部周辺海域においてマルチチャンネル反射法音波探査及びドレッジ調査を行った.本稿では,GS22,GB22-1及びGB22-2の3航海で取得した反射断面及びドレッジ調査の概要について報告する.特に,本調査で重点的に観測したトカラ列島北方及び種子・屋久海脚周辺海域に認められる層序・地質構造の特徴について予察的に記載する.種子・屋久海脚周辺海域では,海脚を構成する音響基盤(TY1層)の西側斜面にて不整合面で明瞭に区別される3層の堆積層(TY2層,TY3層及びTY4層)が認められる.西落ちの正断層が海脚西側の等深線に調和的な概ね北北東–南南西走向で複数分布する.トカラ列島北方海域では,不整合面及び音響的層相の異なる3層(N1層,N2層及びN3層)を区分した.N1層は黒島南西沖から蟇曾根及び権曾根にかけて連なる地形的高まりの深部に断続的に認められ,その上位NT2層及びNT3層が海底平坦部に広く分布する.トカラ列島北方海域は北北東–南南西走向の断層,向斜,及び背斜が発達し,NT2層中の地層が変形している.地質構造の特徴から,TY2層・TY3層とNT2層は,琉球弧から沖縄トラフ西方にかけて広がるハーフグラーベン形成時に堆積したと推測される.ドレッジ調査では,GB22-1-D07地点でTY3層が,GB22-1-D08地点でTY3層が,GB22-2-D09地点及び-D10地点でNT2層の上部及び下部が露出していると思われる崖で岩石を採取した.今後,断面における反射面の緻密な対比及び岩石の形成年代の解析を元に統合的な地質層序の解釈を進める.解釈結果はトカラ列島周辺海域の海底地質図として発表する予定である.