抄録
大手芸能プロダクション、旧ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川氏( 2019年没)が、少年たちに性加害を繰り返していた問題が、2023 年、イギリスの公共放送BBCの報道で顕在化した。事務所側が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」は、性加害が、長年にわたり広範に継続した背景に“ マスメディアの沈黙”があると指摘した。
前号(本誌2025年5月号)では、喜多川氏の死去直後の追悼報道について分析した(東山・宮下)。本稿は、再発防止特別チームの指摘を受けて、2023年9月以降にNHKや在京民放キー局が「検証」や「特別番組」と題して地上波で放送した番組の内容を分析する。いずれの番組も、各放送局の報道や制作部門のほか、編成などの現役担当者やOBに実施した「聞き取り調査」の結果を主軸にすえており、それぞれの放送局がこの問題とどのように向き合い、再発を防ぐためにどのような対応をしようとしているのかを示している。
メディアは「ジャニーズ性加害問題」をどのように報じてきたのか、あるいは、報じてこなかったのか。そして、“マスメディアの沈黙”の指摘を受けて、人権侵害を繰り返さないための方策を講じることができているのか。この問題の経緯を踏まえて、各番組の検証内容を俯瞰し、聞き取りの内容をまとめた。
2024年末に週刊誌の報道から公になった中居正広氏の女性トラブルをめぐり、放送局の人権意識が改めて問われるなか、失われた信頼を取り戻すために放送メディアに何ができるのか、改めて突きつけられている。