2008 年 8 巻 2 号 p. 129-139
インバモはササバモとガシャモク間の自然雑種である.福岡県北九州市のお糸池では国内で唯一,絶滅危惧種ガシャモクとインバモが野生状態で継続的に生育しているが,近年,これらの個体数が減少しつつある.お糸池の現存個体と博物館所蔵の過去の標本を用いて,インバモの交配の方向と形態的特徴を調べた.核遺伝子adhと葉緑体遺伝子rbcLを解析した結果,インバモにはガシャモクを母親とするD型とササバモを母親とするM型があり,両者は葉の形態である程度区別できた.お糸池では,過去にD型のインバモが採集されているにもかかわらず,現存するパッチはすべてM型であった.栽培実験では,ガシャモクはササバモに比べて渇水時の生存能が低く,M型のインバモはササバモと同様に渇水時の生存能が高かった.お糸池では,近年,透明度の低下や渇水が起こっており,このような生育環境の悪化により,D型のインバモは選択的に生育できなくなった可能性がある.