植物分類,地理
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ナラヴェリヤ属の再検討
田村 道夫
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1986 年 37 巻 4-6 号 p. 106-110

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抄録

Naraveliaはキンポウゲ科のなかで分布域が熱帯に限られている雄一の属である。インド南部よりインドシナを通って中国西南部に、また、マレーシアを通ってモルッカ諸島にまで分布しており、7属が知られる。この属はセンニンソウ属Clematisにごく近いが、細長い花弁があることと、巻きひげがあることで区別されている。この属の花弁は細長く、がく片よりも長くて先が膨らみ、大ていは棍棒状かスプーン状である。センニンソウ属でも、ミヤマハンショウズル節Clematis sect. Atrageneは花弁をもつが、この節の花弁は巾が広くてへら状となり、雄蕊との間に移行型がある。Linne(1753)は花弁をもつことを重視して、Naraveliaをミヤマハンショウズルの仲間とともにAtragene属に分類している。しかし、両軍の花弁は大へん異なっており、独立に起源したものと考えられる。この属の雄蕊では、葯隔が突出したり、また、巾が広くなって葯が内出することが多く、著しい場合には、木本性多心皮類にみられる葉状雄蕊のようになる。そのような著しいものはないが、センニンソウ属でも花糸が広がり、葯が多少とも内向することはごく普通にみられるし、また、葯隔の突出するものも少なくない。葯隔がかなり著しく突出するものには、東南アジアに分布するヤエヤマセンニンソウ節Clematis sect. Naraveliopsis やオセアニアに分布するC. subsect. Aristatae などがある。これらの分布範囲はNaraveliaと重なるか、隣接して、何らかの系統的関係が示されているのかもしれない。Naraveliaの葉はふつう1対の小葉をもち、葉の軸はその先で3分し、3本の巻きひげとなる。したがって、この巻きひげは、頂小葉および上部の1対の小葉の変形したものと見なされる。Naraveliaにおける諸形質の変わり方はセンニンソウ属によく似ており、例えば、センニンソウ属と同様に、茎に12本の太い維管束があって12条の稜が目立つもの(N. dasyoneura, N. siamensis, N. pilulifera)を多くの条があって断面をほぼ円いものに分けることができ、また、腋生する花序の花の数(N. dasyoneura, N. paucifloraでは花数が少ない)も種を区別する重要な特徴になる。さらに、N. dasyoneuraの痩果の花柱は、Clematis brachyuraやC. cadmiaのように短くて羽毛状に伸長しない。このようにVaraveliaをセンニンソウ属と区別する特徴は、花弁のように、センニンソウ属にも見られるもの、または巻きひげのようにセンニンソク属にあるものの変形にすぎず、また、形質の変化のしかたもよく似ており、Naraveliaはセンニンソウ層内の特殊化した一群とみなす方がよいかもしれない。POIRET(1811),O.KUNTZE(1885)らはこれをセンニンソウ属に含めているし、PRANTL(1887, 1888)はそのなかの一節Clematis sect. Naraveliaとして扱っている。しかし、便宜上のことではあろうが、近年は独立属として扱われることが多い。Hj. EICHLER(1958)は'Revision der Rannnculaceen Malesiens'のなかでタイのBan Pong Yengで採集されたNaraveliaの標本、Kerr2903に言及している。この植物は葉は2回羽状で3出すると羽片と巻きひげをもち、痩果の種子は入っていてよじれている部分は無毛またはほとんど無毛であり、茎と葉質の特徴はN. siamensisに似ている未記載の種であるという。筆者はタイ植物誌のためにキンポウゲ科をまとめた際、各地の標本庫や野外でこの植物を探し求めたが、同じ植物から採集された3枚のKerr2903以外見つけることはできなかった。これら3枚の標本はキュウ王立植物園、エジンバラ王立植物園、大英博物館に保存されている。他のすべての種では、羽片は、単一、時に2裂し、痩果は細毛に被れており、(ただし、巻きひげについては、葉がこわれていて確認できなかった)、一見して区別できるので、乏しい資料ながら新種N. eichleriとして発表する。

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© 1986 日本植物分類学会
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