植物分類,地理
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東亜植物考察12
大井 次三郎
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1935 年 4 巻 2 号 p. 58-70

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抄録

193) ホソバウシクサ ニューカレドニアからルゾンに分布する Andropogon obliquiberbis Hack. に酷似したもので.若し此の臺灣の植物の小穗が今一廻り大形で下方に毛があつたら直ちにその種にあてゝ疑はなかつたと考へる.A. obliquiberbis Hack. が變異の甚だしいものであるならば臺灣のも同種であらう.ウシクサとは外觀は似て居るが葉が狹くて稍厚く二つに折れる性質があるのと花軸や小花梗に長い毛が生えて居るのが區別點に成る.尚ウシクサは本邦では九州以南に知れて居らなかつたが琉球及臺灣にも分布する. 194) キツネガヤ Thunberg, Steudel 以來此植物は永く Festuca に入れて居て本田博士も之れに從つて居られるが Hackel は何の記事も付せずに Bromus に移して居る.その爲めにその後は Bromus にする人が多く成つた.實際 Poa, Festuca, Bromus, Glyceria, Puccinellia の諸屬は互に酷似したもので往々にして區別の難かしいものに出逢ふのである.Hitchcock 等は北米の Bromus と Festuca とを分けるのに外護頴の先端が全縁なのが Festuca で.その先きが二裂するか又は先端よりも少し下から芒が出るのが Bromus だと云つて居る.北米のものはそれでよいか知れぬが本邦のものではあてはまらぬものがある.歐洲産の Festuca gigantea Vill. やそれに似た本邦の Festuca extremiorientalis Ohwi (オホトボシガラ.タウトボシガラ)等では二裂するにも拘はらず明瞭な Festuca であり.又キツネガヤが頂生するのに之れに酷似した臺灣の Bromus morrisonensis Honda では芒は先端よりも下から出て居る.從つて此の特徴は二屬を區別する最も重要なものとは云ひ難い.で此の兩屬の區別としては從來傅へられた樣に花柱が子房の先端から出るか.その側面から出るかヾ最も大切と思はれる上に此れで分類すると外觀から見た習性にもよくあてはまる.左様するとキツネガヤはやはり Bromus に成るが Bromus pauciflorus Hack. の名は使用出來ないから Bromus remotiflorus (Steud.) Ohwi が正しい.キツネガヤは國外では支那に記録があるが此れは少々疑はしい.

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© 1935 日本植物分類学会
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