2001 年 51 巻 2 号 p. 155-167
シベリアにおけるミクリ属植物の分布については、シベリア標本の情報が少ないこと、ロシア文献の入手が難しいこと、などにより十分に理解されてこなかった。東シベリアヤクーチアにおいて普通にみられる4種のミクリ属植物:ホソバウキミクリSparganium angustifolium、エゾミクリS. emersum、チシマミクリS. hyperboreum、S. natansの分布パターンを標本や野外調査に基づいて明らかにし、定量的な比較を試みた。エゾミクリとチシマミクリがヤクーチアのミクリ属植物としては最も多くみられる種であり、前種の分布は中央低地、特にレナ川中流城に集中しており、後種はいくつかの水系にランダムに分布し、かつ分布域はより北に偏っていた。その結果、ヤクーチアにおいて最も多くみられる2種は、その地理分布パターンにおいて明瞭な対照をなしている。エゾミクリの分布地点は高い7月平均気温により特徴づけられ、しばしば富栄養的な水環境にみられる。一方チシマミクリはより低い7月平均気温とより貧栄養な水環境で特徴づけられる。これら2種は北方地域における水環境指標植物として有用である。