植物分類,地理
Online ISSN : 2189-7050
Print ISSN : 0001-6799
東亜植物資料17
大井 次三郎
著者情報
ジャーナル フリー

1938 年 7 巻 3 号 p. 129-138

詳細
抄録

278) アキノヱノコログサ 夏期から秋期にかけて藪の縁と云はず道傍と云はず多數に見られる本種は本來のヱノコログサよりも大形であつて小穗も大きく,少々相違して居る,京大木原教授の御研究によると染色体の數が相違するとの事である.此植物は本州,四國,九州は勿論の事朝鮮,臺灣や支那にまでも廣く分布して居て既に學名が存在する可能性はあるが何としても見出す事が出來なかつた.支那では Setaria Faberii HERRM. にあてて居る學者もあるが記載では第二苞頴の長さ,小穗の形状,不實内護頴の形に著しい相違がある. 279) ケイハタデ 北鮮にはオヤマソバやヒメイハタデに似て全体が大きく,莖や葉には極短い毛茸が一面に可なり密生して居る一種があつて歐洲産の P. alpinum ALL. に最も近いが葉巾廣く,毛茸短くて且密生するので區別される. 280) オヤマソバ は No.248 に述べた理由から改組する. 281) タイワンツルドクダミ 臺灣産のツルドクダミは中井博士の指摘して居られる樣に内地のものとは相違する.葉が細く,基部は略截形,先端は餘り急に細まらないのが特徴である.支那のものの變異は知る事が出來ないが本邦領土内では兩者の差ははつきりして居る.中井博士の名稱は記載を共はないので改めてタイプを定める. 282) オホアヅマスゲ 朝鮮産のアヅマスゲは初めアヅマスゲの葉巾の廣い變種と考へ var. lata の名を與へたが此の特徴は餘りはつきりせぬので後に内地産のものと同じに取扱つた.しかし再檢の結果朝鮮のものは葉巾が平均して廣い事の外に花莖に2-3個の小穗を着ける事(アヅマスゲでは1-2個) ,雄小穗は密に且多數の雄花を着け,その鱗片は常に著しい小芒があるのが特徴で,別種とした方が正當と考へられるので改めて記載する. 283) タイワンタチイチゴツナギ タチイチゴツナギの高山型である Poa glauca VAHL の一種で臺灣の高山に自生する.稈の半分乃至三分の一は圓錘花序が占めて居るのが著しい特徴と成る 284) タカネイチゴツナギ Poa misera var. alpina KOIDZ. として小泉先生の發表された植物である,後に本田博士は Poa sphondylodes の變種に移したが葉舌の短い點から此れも Poa glauca VAHL に極近い一種と考へる. 285) キタダケイチゴツナギ 此種も本州中部高山の産, Poa glauca VAHL とタチイチゴツナギとの中間に來る一種で前種に比して草丈が高く,苞頴が細長く,尖るのが相違し,後者とは護頴の形質は稍似て居るが葉舌が長いのと葉が稈の比較的下部にだけ着いて居る點が相違する.

著者関連情報
© 1938 日本植物分類学会
次の記事
feedback
Top