植物分類,地理
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東亜羊歯植物考察16
田川 基二
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1938 年 7 巻 3 号 p. 184-191

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抄録

207. 熱河のケガハシダ Gymnopteris borealisinensis KITAGAWA は古くFRANCHET が Gymnogramme vestita HOOK. var. auriculata FRANCH. と命名したものと同種である.これは Gymnopteris vestita (HOOK.) UND. に外形だけは似てゐるが,むしろ G. bipinnata CHRIST に近いもので,ただこれは2囘羽状複生であるのにケガハシダは單羽状複生であるといふ差があるだけである.筆者はケガハシダを G. bipinnata CHRIST の變種とする秦仁昌氏の説を採つて Gymnopteris bipinnata CHRIST var. auriculata (FRANCH.) CHING といふ學名を用ひたい.種と考へるならばもちろん北川氏の學名を用ふべきである. 208. 印度支那の Diplazium aridum CHRIST と南支那の D. nudicaule (COPEL.) C. CHR. とは共に琉球や臺灣に多いシマシロヤマシダ Diplazium Doederleinii (LUERSS.) MAKINO と同種であると思ふ. 208. 印度支那の Diplazium contermium CHRIST と南支那の D. allantodioides CHING とは共にコクマウクジヤク D. virescens KUNZE と同種である.又 WHEELER が日本の何處かで採つた D. Wheeleri (BAK.) DIELS や屋久島のヤクシマクジヤク D. tutchuense KOIDZ. も同種であると思ふ. 210. タニイヌワラビの學名には Athyrium rigescens MAKINO よりも古い Asplenium otophorum MIQ. をメシダ屬に移した Athyrium otophorum (MIQ.) KOIDZ. を用ひるのがよい.暖地に多いもので,九州や四國に多く,本州では中國,近畿,北陸は越中あたりまで,東海道は伊豆附近まであり,秦仁昌氏によれば支那にも亦あるといふ. 211. 熱河のシラゲデンダ Woodsia jehoiensis NAKAI et KITAGAWA は支那の W. Rosthorniana DIELS と同種である. 212. イハデンダ屬 Woodsia R. BR. の中で Sect. Eriosorus CHING に屬する種類は邦内にはまだ一種も發見せられてゐなかつたが,京大農學部林學教室の岡本省吾氏が,昨年遂に臺灣の關山(3715m)で發見せられた.これは支那の W. cinnamomea CHRIST に似てゐるが,葉柄は黒檀色,羽片は深く切込み,裏面には毛の他に細い鱗片もあるから別種である.他に比較すべき種類もみあたらないので,新種にしてクワンザンデンダ(新稱) Woodsia Okamotoi TAGAWA sp. nov. と命名した. 213. イハヘゴモドキ(新稱) Dryopteris Mayebarae TAGAWA sp. nov. は前原勘次郎氏が肥後の人吉で10年ばかり前に發見せられたものである.外形はヲクマワラビ D. uniformis MAKINO の切込の淺いものに頗るよく似てゐるが,胞子には隆起皺があつて疣状の小突起がないからイハヘゴ D. cycadina C. CHR. var. meianolepis NAKAI に近いものである.

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© 1938 日本植物分類学会
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