2007 年 56 巻 12 号 p. 981-991
1998年に発生した和歌山毒カレー事件のような,原因不明の大規模な中毒事件の発生は,安全・安心な社会を脅かすものであり,行政レベルで十分な対策を施す必要がある.分析化学がこのような毒劇物中毒事件発生の危機にいかに貢献すべきであるか.著者は,警察庁科学警察研究所において,シアンなどの揮発性毒物の分析,代謝,毒性に係る研究,鑑定,都道府県警察本部科学捜査研究所職員に対する研修・指導を業務としてきたが,1998年に発生した毒物連鎖事件の鑑定に携わった.本総合論文では,毒物連鎖事件と著者が担当した鑑定の概要を紹介し,本事件の事後対応における反省点を挙げ,原因不明の中毒事件に際した場合の毒物検査に従事する分析化学者が留意すべき点に関して述べる.