分析化学
Print ISSN : 0525-1931
最新号
特集:産業の発展に貢献する分析化学
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
巻頭言
総合論文
  • 澤津橋 徹哉
    原稿種別: 総合論文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 229-242
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    ポリ塩化ビフェニル(PCB)は電気絶縁性,化学的安定性に優れた化学物質として工業化されさまざまな分野で使用された.一方,その毒性が指摘され,残留性有機汚染物質(POPs)の一種として2000年初頭からその廃絶の動きが活発化した.そこで本研究では,PCB迅速分析法の実用化に必要な条件を満たすために,種々の分析特性の評価を行い,分析化学的なアプローチからクロマトグラフィーを応用したユニークで優れた特性を示すPCB迅速分析法を提案した.溶剤中PCBの迅速分析法として,流れの中でPCBとそれ以外の絶縁油成分などを効率的に分離する方法を提案し,また,排水中PCBの迅速分析法としては,オンライン固相抽出法に着目し,極微量のPCBの効率的な濃縮方法を提案した.それぞれのPCB定量下限は0.1 mg kg−1,0.5 μg L−1であり,測定時間2時間以内,変動係数5% 以内で,決定係数0.98以上の精度で公定分析法と同等の定量が可能であることを実証した.本技術をモニタリング装置としてPCB処理システムに実装することで,2005年から約17年間,PCB処理事業の安全・安心な遂行を支え,PCB環境問題解決に貢献できたものと考える.

  • 高橋 一敏, 巽 萌美, 山口 浩輝
    原稿種別: 総合論文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 243-249
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    アミノ酸は生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしており,その精密な分析は,生化学,医学,食品科学といった多様な分野で極めて重要とされている.これまでのアミノ酸分析技術は,複数のアミノ酸を同時にかつ高精度に定量できる一方で,専門的な知識と高度な機器が必要となるため,技術の習得と費用の面で課題が存在していた.また,分析に用いる機器が大型であるため,採取サンプルに対する即時分析には制約があった.近年,オンサイト分析の需要が増大していることを背景に,著者らは特別な専門知識が無くても実行可能で,手軽かつ迅速,そして精確なアミノ酸分析手法の提供を目指し研究開発を行ってきた.この目標の達成のためにアミノ酸代謝酵素を利用する手法が知られており,すでにいくつかの研究開発が行われている.しかしながら,天然由来の酵素には安定性などの観点から課題が多く,課題を解決するためにプロテインエンジニアリングの活用が必要とされることが多い.本総合論文では,アミノ酸代謝酵素を活用したオンサイトアミノ酸分析法の開発とその応用に焦点を当て,さらに酵素利用の利点と課題を示し,課題解決のために著者らが行ってきた研究成果を示す.

  • 渡辺 壱
    原稿種別: 総合論文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 251-263
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    近年,科学技術と産業の進化に伴い,さまざまな機能性高分子材料が創出されている.より優れた物性や機能性を有する材料を開発する上で,高分子材料のキャラクタリゼーションは重要な役割を果たしている.熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析(Py-GC/MS)法は,ほとんど前処理を必要とせず,ごく微量の試料で,あらゆる形態の高分子材料に対して定量及び定性分析が可能な分析法である.この分析法で用いる加熱炉型熱分解装置を備えたPy-GC/MSシステムは,瞬間熱分解分析法のみならず,発生ガス分析法や熱脱着分析法にも利用できる汎用性を有している.しかし,高分子材料の高度な進化に伴い,従来の測定システムではキャラクタリゼーションが困難な状況に直面することがある.本稿では,これらの状況を解決するために開発された多機能Py-GC/MSシステムについて概説する.

報文
  • 飯國 良規, 海老名 美歩, 定月 友里, 北川 慎也, 大谷 肇
    原稿種別: 報文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 265-271
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    透過型電子顕微鏡(TEM)の試料保持に使用される市販のAuマイクログリッドを電極として用いることで作製が簡易かつ安価な誘電泳動デバイスを提案した.TEM用マイクログリッドは幅が数十μmのグリッドバーの格子構造を有する直径約3 mmの薄膜であり,これまでに報告されている誘電泳動デバイスの電極と同様に,微粒子の誘電泳動として適したサイズ及び精度の電極として利用が可能であることが予想された.実際に300メッシュのAuマイクログリッドを電極とした本デバイスを用いて蛍光ポリスチレン粒子の誘電泳動を観測したところ,粒径0.5 μmまでの小ささの蛍光ポリスチレン粒子の泳動が可能であることが示された.さらにグリッドバーの細いマイクロメッシュを電極として利用することで粒径0.05 μmの蛍光ポリスチレンも誘電泳動させることが可能となり,本デバイスが微粒子分析法として有効であることを示した.

  • 小﨑 大輔, 久保野 智尋, 古賀 十冴, 光井 優太, 宇賀 悠貴, 佐合 悠貴, 藤原 拓
    原稿種別: 報文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 273-279
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,塩基性溶離液(NaOH)と強塩基性陰イオン交換樹脂分離カラムを組み合わせた液体肥料中のイオン性栄養塩類(K,NH4,NO3,NO2,HPO42−)の同時分離定量法を応用し,水耕栽培における液体肥料中のイオン性栄養塩類の濃度変動に関するモニタリングと施肥管理を試みた.その結果,本法の適用により,水耕栽培において用いる液体肥料中の主要イオン性栄養塩類であるK,NO3,HPO42−の変動に関するモニタリングが可能であった.また,水耕栽培における液体肥料の一般的なモニタリング法である電気伝導度やpH測定では得られなかった液体肥料中の栄養塩組成やその組成の変化などが詳細に把握可能であった.加えて,液体肥料の使用期間が長くなるほど,イオン性栄養塩類の組成は初期のそれからずれることも示された.以上のことから,pH及び電気伝導度センサーに代替できるイオン性栄養塩類のモニタリング法としての本法の有用性が示された.

  • 浦野 恵悟, 横田 優貴, 三輪 竜也, 堀野 良和, 源明 誠, 井上 嘉則, 加賀谷 重浩
    原稿種別: 報文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 281-287
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    グリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートとの共重合体からなるメタクリレート樹脂へのイミノ二酢酸の固定化条件,イミノ二酢酸水溶液のpH,イミノ二酢酸濃度,反応時間,溶液量,樹脂量/溶液量比について検討した.Cu(II) 捕捉容量と元素分析により求めたイミノ二酢酸固定化量より,固定化にはpH 11.0が適しており,イミノ二酢酸濃度を37 wt% とし,50℃,120 rpmで加熱撹拌かくはんしながら20時間反応させることで最大Cu(II) 捕捉容量(0.54 mmol g−1)及びイミノ二酢酸固定化量(0.48 mmol g−1)の樹脂を調製可能であった.異なるイミノ二酢酸固定化量をもつ樹脂のCu(II) 捕捉迅速性についてバッチ式(回分式)固相抽出操作における擬二次反応速度定数をもとに評価したところ,検討した中で最も小さいイミノ二酢酸固定化量(0.27 mmol g−1)をもつ樹脂が最大の速度定数を示した.この結果より,イミノ二酢酸固定化量,すなわち固定化密度の小さい樹脂が元素捕捉迅速性に優れている可能性があることが示唆された.

技術論文
  • 佐藤 惇志, 筒井 拓也, 埴原 鉱行
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 289-295
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    香料は,数百種類の成分(以下,香料成分)で構成され,衣料用液体洗剤等の製品に香りという製品機能を付与する.香りの品質管理において,設計通りの配合量(以下,賦香率)で製造されていることの確認や,製造トラブル時の原因解明の際に,香料を網羅的に抽出し分析する必要がある.これまでに著者らは,高濃度の界面活性剤を含む柔軟仕上げ剤(以下,柔軟剤)の香料定量法として,ケイソウ土カラムを用いた前処理法とGC/MS測定を組み合わせた分析方法を開発した.しかし,本手法を高濃度のエーテル系非イオン性界面活性剤を含む製品の代表である衣料用液体洗剤に適用した場合,エマルション形成の抑制が不十分等の理由により香料の回収率低下が確認された.そこで,試料量や添加する塩の種類等の試料負荷方法を検討し,回収率と繰り返し再現性が共に良好な定量分析法を開発した.本方法により,液体洗剤の賦香率を精度よく定量することが可能になった.

  • 熊谷 将吾, 山口 颯斗, 齋藤 優子, 吉岡 敏明
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 297-304
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    廃プラスチックやバイオマス等の有機炭素資源を化学原料・燃料に転換する熱分解プロセスを効果的に開発するために,熱分解条件を高効率にスクリーニングすることが求められる.本研究は,GCに直接搭載可能な小型熱分解装置(パイロライザー),GC,2種類のカラム,ガス切替装置,複数の検出装置(MS,FID及びTCD)及びメタナイザーを組み合わせた,熱分解─ガスクロマトグラフ/マルチ検出器(Py-GC/マルチ検出器)を開発した.本装置により,熱分解試験から多岐に渡る熱分解生成物の定性・定量分析に至るまでインライン評価が可能となった.ケーススタディとして,ポリスチレン及びセルロースを500〜700℃ で熱分解し,その熱分解生成物組成を検討した.また,試料充填量及び加熱部滞留時間の異なる管型反応器を用いた熱分解試験を実施し,Py-GC/マルチ検出器で得られた熱分解生成物組成と比較を行った.結果,今回開発したPy-GC/マルチ検出器は,試料の急速加熱及び熱分解反応の比較的初期における生成物の評価に優れ,簡便かつ迅速な熱分解条件スクリーニング及び熱分解反応解析に資するシステムであることを確認した.

  • 中島 圭一, 吉岡 信明, 後藤 未来, 田口 秀之
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 6 号 p. 305-312
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    防錆目的で鋼板表面に形成されるリン酸亜鉛などの化成処理皮膜は,厚さ数μmで緻密な結晶構造を持つ.EPMAは「マイクロアナライザー」という名のとおり,リン酸亜鉛皮膜は最適なサイズであり,機械研磨による断面試料の分析が可能である.しかし近年は,SDGs等の観点から薄膜で高性能皮膜のニーズが高くなってきた.そこで厚さ数十nmで非晶質のジルコニウム(Zr)系皮膜が開発され,現在リン酸亜鉛皮膜からの切り替えが進んでいる.薄膜で非晶質のZr系皮膜は,従来条件でのEPMA分析は困難であるため,TEMで用いる薄片化断面試料を用いて高倍率マッピング分析法の検討を行った.さらに照射ビーム条件を変えた時のビーム径も測定し,その影響についても確認した.以上の検討結果より,厚さ数十nmの非晶質Zr系皮膜断面のZr分布をとらえることができ,EPMAによるナノオーダーの分析条件を確立することができた.

アナリティカルレポート
  • 本川 正規, 秋武 将俊, 戸波 翔太郎, 村山 希, 宮川 浩美, 宮木 協
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2024 年 73 巻 6 号 p. 313-317
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    表面処理は素材表面の特性を変化させることにより,耐腐食性,化学的安定性,耐摩耗性,耐熱性,親水性,疎水性,吸着性,非吸着性といった新たな機能性を付加させることが可能である.金属,樹脂,ガラスなど分析化学で使用されるさまざまな素材に対して,適切な表面処理を施すことで,サンプルの取扱い易さ,検出感度,装置の耐久性向上などの効果を発現させることができる.著者らは分析機器に広く使用されているステンレス鋼に代表される金属部品をターゲットに化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition: CVD)を利用し,成膜による表面機能化技術の「InertMask」開発を行った.InertMask処理を施したステンレス部品を液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography: HPLC)またガスクロマトグラフィー(Gas chromatography: GC)に適用した結果,金属吸着性のサンプルに対する吸着性を低減させ,検出感度を向上させることが可能となった.

  • 谷亀 麻衣, 相良 昌寛, 伊東 有沙, 汪 秋益, 大田 真也, 松居 佑典, 長田 誠, 渡辺 淳
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2024 年 73 巻 6 号 p. 319-327
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    近年,昆虫食の実用化が注目されているが,食用昆虫の栄養に関する研究はいまだ開発途上にある.これまでタンパク質やペプチド,脂質に関する報告があるが,一次代謝物に関する調査は行われていない.そこで,本研究ではLC-MS/MSを用いて200種類の一次代謝物を一斉解析し,ヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)が持つ特徴的成分を探索した.多変量解析の結果,ヨーロッパイエコオロギの特徴的成分としてイノシンなどが発見された.イノシンは細胞のエネルギー供給に関与し,免疫増強や抗ウイルス作用も期待されるが,過剰摂取にも注意が必要である.また,カルニチンやアセチルカルニチンは脂肪酸代謝を促進する化合物である.昆虫の化学組成はさまざまな要因に影響を受けるが,今回の研究では産地別の解析も行い,特定の成分が異なる産地で検出されることがわかった.ヨーロッパイエコオロギに特有の成分やその調節因子が明らかになることで,食物や飼料としての実用性が高まることが期待される.

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