分析化学
Print ISSN : 0525-1931
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特集:バイオ分析の新潮流
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特集:バイオ分析の新潮流
分析化学総説
  • 佐藤 香枝
    原稿種別: 分析化学総説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 63-69
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    ローリングサークル増幅反応(Rolling circle amplification, RCA)は,環状DNAを鋳型にしてポリメラーゼ伸長反応で長い一本鎖DNAを合成する方法である.環状DNAに相補的な配列を繰り返し持つので,蛍光標識オリゴDNAを作用させることで,1分子であっても複数の蛍光色素で標識された強いシグナルを持つ粒子になる.現在RCA反応は,組織・細胞試料中のDNA・RNA検出する際に,分析対象のシグナルを増強する手段として用いられている.また,細胞の形状を保ったまま,DNAのシークエンスを行うことも実現している.本稿では過去10年間のRCAを用いた細胞・組織中のDNA・RNA検出法の発展について紹介する.

総合論文
  • 吉冨 徹, 吉本 敬太郎
    原稿種別: 総合論文
    2024 年 73 巻 3 号 p. 71-78
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生を促進する分泌タンパク質であり,その中でもVEGF-Aは,血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)-1及びVEGFR-2に結合し,VEGFシグナル伝達経路を活性化する重要な分子である.著者らは,試験管内人工進化法の配列解析に低頻度配列でも配列を同定することができる次世代シークエンサーを用いて,VEGFR-1及びVEGFR-2に特異的に結合する核酸アプタマー群の探索に成功した.本総合論文では,得られた核酸アプタマー群の構造解析と,(1)血管新生促進剤としての機能,及び(2)シグナリングアプタマーとしての機能についてまとめる.

  • 西澤 精一, 芳野 幸奈, 何 夢夢, 樋口 啓, 富樫 奈央, 鈴木 理志, 五十嵐 友梧, 佐藤 雄介
    原稿種別: 総合論文
    2024 年 73 巻 3 号 p. 79-86
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    一般に既存の核酸結合低分子化合物はDNA選択性を示すため,RNAイメージングに適用しうる蛍光性小分子(色素)の開発は試行錯誤的な状況にある.実際,市販されている核小体RNA染色色素はわずか2種類であり(化学構造は非公開),いずれも生細胞イメージングに適用することができない.DNA(核)染色に汎用される蛍光色素DAPIやヘキスト33342のように,生体膜透過性をもち細胞培養液に加えるだけで生きた細胞を染色できる蛍光性小分子色素の有用性は明らかであり,これらに準じたRNA染色色素を開発することができれば,核小体RNA関連研究において極めて有用な解析プローブになると期待できる.本稿では,著者らが開発を進めた生細胞核小体RNAイメージング蛍光色素について報告する.

  • 佐藤 守俊
    原稿種別: 総合論文
    2024 年 73 巻 3 号 p. 87-93
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    蛍光タンパク質の実用化を契機として,1990年代以降,光を使ったバイオイメージング技術は世界中の研究室で利用されるようになり,分析化学を含めた生命科学に大きな影響を与えてきた.しかし,生命科学における光技術の将来は,必ずしもバイオイメージングに限定されない.近年,光を使って生命現象を自在に操作するための技術開発が進められている.光操作技術は特に神経科学・脳科学の分野で大きく発展し,脳機能の解明に大きく貢献してきたが,一般性・汎用性の高い新たな技術の開発により,最近では,生命科学の広範な分野に光操作技術の応用が始まっている.著者らは,光操作技術の開発の黎明期から当該分野の研究に携わってきた.本稿では,光を使って生命現象を自在に操作するための著者らの基盤技術とその関連研究に関して,具体的な研究例を挙げながら概説する.

報文
  • 山口 弥希, 尾上 大樹, 松下 裕太郎, 上村 真生
    原稿種別: 報文
    2024 年 73 巻 3 号 p. 95-101
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    本研究では,代表的な温度感受性イオンチャネルであるTRPV1チャネルを活性化するための手法として,近赤外光に応答して発熱(フォトサーマル効果)し,使用後は分解して体外に排泄される生分解性ポリマーミセルを用いた遠隔活性化方法を開発した.フォトサーマル効果を示す色素であるインドシアニングリーン(ICG)を含むポリマーミセル(ICGミセル)は,優れた生体適合性と生分解性を示した.さらに,組織透過性に優れた近赤外(NIR)光照射下で,ICGミセルは優れたフォトサーマル効果を示した.また,抗TRPV1抗体を導入したICGミセルは細胞膜上のTRPV1に対して選択的に結合し,NIR光照射下において神経細胞へのNaイオン流入の促進と膜電位の上昇が観察された.これらの結果から,本研究で開発したICGミセルは,神経細胞を非侵襲かつ遠隔的に活性化し,神経系の操作・分析を可能にするツールとしての利用が期待される.

ノート
  • 山本 翔太, 中西 淳
    原稿種別: ノート
    2024 年 73 巻 3 号 p. 103-109
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    上皮間葉転換(EMT)は,上皮細胞が間葉系的な表現型を獲得する現象であり,生理学・病理学プロセスのいずれにおいても重要な役割を果たしている.最近の研究から,EMTは液性因子や遺伝子発現のみならず,細胞外マトリックス(ECM)の生化学及び力学刺激を受けることが分かってきた.しかしながら,ECMに起因するEMT応答は,方法論的な観点において,液性因子や遺伝子発現のように細胞に暴露する刺激を自在に制御することが難しいため,その詳細が明らかとなっていない.そこで本研究では,細胞接着性環状RGDペプチド(cRGD)と光分解性2-ニトロベンジル基を組み合わせた分子を合成し,細胞に提示するcRGD密度を光変化できる金基板を開発した.この金基板を用いて,光照射によって急速にcRGD密度が低下する際のEMTの進行を調べた.その結果,高密度cRGD上で上皮系形態を示していた腎尿細管上皮(MDCK)細胞が,光照射によるcRGD密度の低下に伴って即座に間葉系形態へと変化する様子が確認できた.この光応答性足場材料は,生命現象を定量的・定性的にとらえるバイオ分析への貢献が期待される.

  • 冨田 峻介, 栗田 僚二
    原稿種別: ノート
    2024 年 73 巻 3 号 p. 111-116
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    フルーツジュースの需要が高まる中,品質や安全性の確保,さらには偽造の特定や防止に資する分析技術の開発が求められている.本研究では,環境応答性のダンシル基を導入したポリ-L-リジン(PLL-Dnc)とパターン認識アルゴリズムを組み合わせることで,フルーツジュースを高精度に識別可能なセンシング系を開発した.PLL-Dncを6種類の異なるpH及びイオン強度の緩衝液中に溶解させ,これを8種のフルーツジュースと混合することで,各ジュース固有の蛍光パターンが生成された.得られた蛍光パターンをパターン認識アルゴリズムにより解析することで,フルーツジュースを高い精度で識別することに成功した.このセンシング系は,高額な機器や専門的な技術を必要としないため,飲料業界における製品開発や品質評価において新たな選択肢を提供する可能性がある.

  • 児玉 玲, 佐藤 記一
    原稿種別: ノート
    2024 年 73 巻 3 号 p. 117-121
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/12
    ジャーナル フリー

    腸管吸収や腸内細菌叢に関する研究のためにマイクロ腸管モデルが注目されている.この腸管モデルを構築するためには,単層培養した腸上皮モデル細胞が細胞間にしっかりとしたタイトジャンクションを形成していることが必要であり,それを確かめるために経上皮電気抵抗(Trans-epithelial electrical resistance, TEER)を測定することが必要である.そこで,一般的な生化学系の実験室でも作製できる,TEER測定可能なマイクロ腸管モデルを開発することを目指した.ポリジメチルシロキサン,ポリエステル多孔質膜,白金線を用いて作製したマイクロデバイスにヒト腸上皮モデル細胞としてCaco-2細胞を培養し,マイクロ腸管モデルを構築した.細胞の生育に伴って経時的にTEERの値が上昇する様子が計測でき,開発したモデルが実用的であることが示された.

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