薬物の乱用は世界中で大きな社会問題を引き起こしている.乱用によるリスクから人々の健康を予防し,守るためには乱用薬物の分析法の開発と応用が重要である.一方,薬物の摂取を証明するには,血液や尿などの生体試料の分析が不可欠であるが,その中で,毛髪は長期にわたる摂取情報を知ることのできる貴重な試料といえる.毛髪分析の歴史は比較的新しいが,分析機器の発展に伴って,実用的で有用な分析法が開発されるようになり,現在では法中毒学あるいは臨床化学などの分野で大いに利用されるようになっている.本総説では,毛髪分析の歴史,意義などを解説するとともに,最近の分析例を紹介する.