分析化学
Print ISSN : 0525-1931
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放射光顕微赤外分光分析法による出土繊維文化財の材質同定及び劣化状態の解析
奥山 誠義佐藤 昌憲赤田 昌倫森脇 太郎
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2010 年 59 巻 6 号 p. 513-520

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抄録

本研究では,遺跡の発掘調査により出土する考古資料の中で埋蔵環境が異なる3遺跡(3C~6C.AD)から出土した天然繊維(絹,大麻,苧麻)に関する材質分析や,分解・劣化現象について赤外分析法を利用した遺跡間の比較検討結果を報告する.測定装置は高輝度光科学研究センター(JASRI)の大型放射光施設SPring-8に設置されているビームラインBL43IRの放射光顕微赤外分析装置を用いた.出土絹繊維については劣化が進行していることが多いが,その場合,主として絹タンパク質のアミドIとアミドIIの吸収領域のパターンにおいて,共通した変化が生じている.この現象は著者らによる既発表の基礎検討結果を裏付けており,主としてアミドIIを構成する絹フィブロイン分子の2次構造成分の変化に基づく現象である.なお,繊維文化財の埋蔵環境により繊維文化財に金属成分が付着する場合などには赤外スペクトルにその影響がみられ,スペクトルにわずかな差異が生じる場合がある.一般に植物性繊維(大麻,苧麻など)は絹繊維ほどには劣化せず,植物性繊維に共通する赤外吸収パターンがほぼ残っていることが多い.また,植物性繊維の基本構成はセルロース分子であるため,赤外スペクトルは品種によらず酷似したスペクトルを示す.通常植物性繊維の材質を赤外スペクトルだけで同定することは困難なことが多いが,現代の植物性繊維でも品種間にわずかな差異を示すことがあるため,この点が今後の研究課題である.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry 2010
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