抄録
本論文は,これまでにその存在は指摘されていたものの実際に分析されることのなかった,漆塗膜に紫外線を照射した際に発生する揮発性劣化生成物について検討を行った研究である.分析手法には,新しく開発されたオンライン紫外線照射/熱分解-ガスクロマトグラフィー/質量分析(UV/Py-GC/MS)法を用いて,生漆塗膜からの揮発生成物について解析した.その結果,紫外線照射に伴う揮発成分は,漆膜に残存するウルシオール由来の2重結合が紫外線によるアリル転位に伴って活性化した部分に酸素が結合することで引き起こされる,酸化開裂反応が原因であることと示唆された.このように本論文では今まで着手されてこなかった生漆塗膜からの揮発性劣化生成物に対し,新たに開発された装置を用いて分析することで,紫外線劣化の際に起こる酸化開裂の反応について検討し,紫外線劣化機構に対する一定の見解を得た.