抄録
Dechlorane Plusは,1970年代に禁止されたMirex(Dechlorane)の代わりに開発された塩素系難燃剤であるが,近年,欧米や中国での調査報告が急増している.しかしながら,我が国での調査報告例がないことから,著者らは高分解能ガスクロマトグラフィー/電子イオン化質量分析(GC/EI-MS)法を用いて国内の環境汚染の概要調査を実施した.その結果,著者らは我が国の都市域で採取した環境試料から初めてDechlorane Plusを検出した.検出されたDechlorane Plusの濃度は,屋内ダストで2.9~42 ng g−1-dry,窓枠付着粉じんで240~270 ng g−1-dry,路上堆積物で74~150 ng g−1-dry,土壌で1.7 ng g−1-dry,底質で17~140 ng g−1-dryであった.また,これらの試料中のDechlorane Plusのanti体の割合(fanti)は,それぞれ0.65,0.83,0.80,0.81,0.81であった.今回調査した我が国の屋内ダストや土壌,底質中のDechlorane Plus濃度やanti体の割合(fanti)は,他国の調査結果と同程度であった.さらに,今回の研究を進める中で100 μg mL−1ノナン溶液の標準物質を約−25℃ で保存するとanti体の濃度の減少が確認されたことから,anti-Dechlorane Plusの標準液を保存する場合には,溶媒や温度と保存濃度に注意が必要である.今後,我が国のDechlorane Plus汚染の実態をより広く調査し,汚染原因の解明を進めることが望まれる.