分析化学
Print ISSN : 0525-1931
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三元系錯体を用いたカルシウムイオン放出電気化学デバイスの作製と評価
廣田 憲治加藤 亮澤田 和明服部 敏明
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2016 年 65 巻 11 号 p. 637-644

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抄録

電極活性陽イオン界面活性剤とCa2+が高分子陰イオンと静電的に結合した三元系錯体を調製し,この三元系錯体を含むカーボンペースト(CP)電極によりCa2+放出電気化学デバイスを作製した.ポリビニル硫酸(PVS)とその半当量の11-フェロセニルトリメチルウンデシルアンモニウム(FeTMUA)を含む混合溶液を調製し,その混合溶液に塩化カルシウムを加えて三元系錯体の沈殿を得た.FeTMUAに応答する脂溶性陽イオン選択性電極とCa2+選択性電極を用いて,FeTMUA・PVS錯体とCa・PVS錯体の性質を調べた.FeTMUA・PVS錯体に比べてCa・PVS錯体の生成能は大きくないことが分かった.FeTMUA・Ca・PVSの三元系錯体を内包するCP電極は,FeTMUAが吸着したCP電極とは異なる高電位に酸化波が観測された.三元系錯体量を変えることで数種のCP電極を調製し,5分間の定電位電解後のCa2+放出量を原子吸光分析によって算出した.CP電極での三元系錯体含有量が多い場合には無電解時でもCa2+の放出があったが,少量であれば無電解時でのCa2+の放出がなかった.CPを先端口径500 μmのポリプロピレンチップに充填し,Pt線を挿入することでCa2+局所放出電気化学プローブを作製し,CCD型半導体Ca2+イメージセンサーを使用してCa2+の放出挙動を調査した.プローブ直下の近傍でのみCa2+濃度が時間とともに上昇し,それ以外の領域では,Ca2+濃度がまったく上昇しなかった.また,イメージセンサーの解析から,Ca2+の放出が時間をおいて2段階で行われることが明らかになった.以上のことから,本電気化学的手法により局所だけにCa2+が放出できることが示された.同時に,微量なCa2+放出プローブの研究にCCD型半導体Ca2+イメージセンサーが有用であることを示した.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry 2016
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