2016 年 65 巻 11 号 p. 637-644
電極活性陽イオン界面活性剤とCa2+が高分子陰イオンと静電的に結合した三元系錯体を調製し,この三元系錯体を含むカーボンペースト(CP)電極によりCa2+放出電気化学デバイスを作製した.ポリビニル硫酸(PVS-)とその半当量の11-フェロセニルトリメチルウンデシルアンモニウム(FeTMUA+)を含む混合溶液を調製し,その混合溶液に塩化カルシウムを加えて三元系錯体の沈殿を得た.FeTMUA+に応答する脂溶性陽イオン選択性電極とCa2+選択性電極を用いて,FeTMUA・PVS錯体とCa・PVS錯体の性質を調べた.FeTMUA・PVS錯体に比べてCa・PVS錯体の生成能は大きくないことが分かった.FeTMUA・Ca・PVSの三元系錯体を内包するCP電極は,FeTMUA+が吸着したCP電極とは異なる高電位に酸化波が観測された.三元系錯体量を変えることで数種のCP電極を調製し,5分間の定電位電解後のCa2+放出量を原子吸光分析によって算出した.CP電極での三元系錯体含有量が多い場合には無電解時でもCa2+の放出があったが,少量であれば無電解時でのCa2+の放出がなかった.CPを先端口径500 μmのポリプロピレンチップに充填し,Pt線を挿入することでCa2+局所放出電気化学プローブを作製し,CCD型半導体Ca2+イメージセンサーを使用してCa2+の放出挙動を調査した.プローブ直下の近傍でのみCa2+濃度が時間とともに上昇し,それ以外の領域では,Ca2+濃度がまったく上昇しなかった.また,イメージセンサーの解析から,Ca2+の放出が時間をおいて2段階で行われることが明らかになった.以上のことから,本電気化学的手法により局所だけにCa2+が放出できることが示された.同時に,微量なCa2+放出プローブの研究にCCD型半導体Ca2+イメージセンサーが有用であることを示した.