2017 年 66 巻 5 号 p. 319-331
波長200 nm以下の遠紫外(Far-ultraviolet,FUV)領域ではほぼすべての物質が,その電子状態を反映したスペクトルを示す.しかし,固体や液体の凝集相では,その非常に大きな吸収のために,従来は信頼性の高いスペクトルを取得することが困難であった.著者らは,独自に開発した減衰全反射法(Attenuated Total Reflection,ATR法)型の新しいFUV分光装置を利用することで,水や液体アルカンをはじめとした様々な液体・固体試料のFUVスペクトル測定を実現し,その電子状態を研究してきた.特に最近は,FUV域の基礎研究だけでなく,応用を見据えた研究も進みつつある.本総合論文では,ATR-FUV法を用いたアルミナ界面での水分子の構造,イオン液体の構造や溶媒環境に応じた電子励起スペクトル変化,各種ナイロンの電子状態,そして酸化チタンをはじめとした無機半導体材料の電子状態と光触媒活性の研究について,最近の成果を紹介する.