1970 年 19 巻 9 号 p. 1168-1174
溶媒抽出に基づくクロム(VI)の新しい吸光光度法を開発した.適量のトリス(1, 10-フェナントロリン)鉄(II)キレート陽イオンが水相に存在するとクロム(VI)が選択的にニトロベンゼンに抽出されることを見いだした. pH 3~4の範囲で金属キレート濃度をクロム(VI)の50倍過剰に保てば一定の抽出が得られた.水相中に存在していたクロム(VI)濃度が62.5μg/25 ml以下の範囲で,抽出相のλmax(516mμ)の吸光度とクロム濃度との間には直線性が成立した.抽出種は微酸性におけるクロム酸イオンの平衡定数から考えて[Fe(phen)32+]・[HCrO4-]2と推定された.抽出相の呈色強度は24時間の放置でもほとんど一定であった. 2.08μg/mlクロムの11試料についての標準偏差は,平均吸光度0.4001に対して0.52%であった.多量の鉄(III)はかなりの負誤差を与えるので,メチルイソブチルケトン-iso酢酸アミル混合溶媒による抽出で鉄(III)を除去する方法を検討した.
クロム(III)の酸化には過酸化水素水を用いた.純鉄をマトリックスとしたクロム(III)から得た検量線はやや低いクロムの回収率を示すが,この方法を鉄鋼中のクロムの分析に応用してよい結果を得た.