2011 年 66 巻 8 号 p. 610-614
真空中に存在できる4次元ブラックホールは種類も限られ,比較的単純な構造を持つ.しかし,ひとたび高次元時空を考えると真空でも様々なブラックホールが存在し,多様な現象が起こる.例えば,高次元では球以外にも円筒・平板・トーラスといった形状を持つブラックホールが存在し,それらの間で不安定性を引き金とした「相転移」さえ起こる.そのような動的過程は非線形性の強い複雑な現象と予想されるが,近年発見された「流体・重力対応」を用いれば平易な流体力学として記述できるという.本稿では,一般相対論・流体力学の基礎までさかのぼり,流体・重力対応のエッセンスと高次元ブラックホール研究への応用を紹介する.