日本物理学会誌
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巻頭言
目次
交流
  • 榎戸 輝揚, 和田 有希, 土屋 晴文
    原稿種別: 交流
    2019 年 74 巻 4 号 p. 192-200
    発行日: 2019/04/05
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル 認証あり

    科学探査が及んでいない対象を人類未踏の世界と呼ぶならば,多くの人は宇宙や深海を思い浮かべるのではないだろうか.実は,太古から身近な自然現象である雷雲や雷放電も,極端な環境のために観測が難しく,これまで知られていなかった高エネルギー現象が近年になって発見されている未踏領域である.そもそも,雷放電がなぜ起きるかという基本的問題にも未解明な点が残され,高エネルギー物理学の知見が重要となってきた.本稿では,古典的な可視光・電波での観測のみならず,X線やガンマ線の観測,宇宙線,原子核物理や大気化学に広がる「雷雲や雷放電の高エネルギー大気物理学」という新しい分野を紹介したい.

    雷雲の中では,大小の氷の粒が互いにぶつかりあって電荷分離が生じ,強い電場が生じる.この電場が大気の絶縁作用を破壊し,大電流が流れて強力な電磁波や音を放つのが雷放電である.この雷放電に伴う新しい現象が,1990年代から大気上層で見つかっている.ひとつは,スプライトやエルブスと呼ばれる,奇妙な形状で赤色や青色に発光する高高度大気発光現象(Transient Luminous Event, TLE)である.もうひとつは,雷放電に伴って宇宙空間に放たれる,継続時間がミリ秒で20 MeVまでのエネルギーの地球ガンマ線フラッシュ(Terrestrial Gamma-ray Flash, TGF)である.これらは,雷放電に伴う電場変化で電子が加速され,大気分子の脱励起光や,電子の制動放射を観測していると考えられる.さらに地上観測でも,自然雷やロケット誘雷で突発的なX線やガンマ線も検出された.

    こういった雷放電に同期した放射に加え,雷雲そのものからも,10 MeVを超えるガンマ線が数分以上も地上に降り注ぐ現象が観測されている.一発雷と呼ばれる強力な冬季雷が発生する日本海沿岸の冬季雷雲は世界的にみても稀で,雲底も地表に近いために大気吸収の影響が小さくなり,こういった放射線の測定に有利な環境になっている.そこで我々も10年以上にわたって放射線測定器を設置し,雷雲からのガンマ線を実際に数多く観測してきた.この準定常的なガンマ線の発生機構は,雷雲内の強い電場で加速されなだれ増幅した相対論的電子からの制動放射と考えられており,地球大気という密度の濃い環境下での電場による粒子加速という珍しい物理現象の研究が可能となっている.

    さらにここ数年で新検出器による多地点マッピングを実現したことで,思わぬ発見にも出会うことができた.雷放電で生じるガンマ線が大気中の窒素や酸素の原子核に衝突し,光核反応を起こすことが明らかになったのである.光核反応で原子核から大気中に飛び出す中性子と,生成された放射性同位体がベータプラス崩壊で放出する陽電子を地上観測で検出できたのだ.これは,雷放電が我々の上空で陽電子を生成するという面白い事実を明らかにしたのみならず,雷放電の研究が原子核の分野にも広がることを意味する.また,光核反応で雷放電が大気中に同位体15N,13C,14Cを供給することは,大気化学とのつながりでも今後の研究の進展が期待できる.本稿では,学術系クラウドファンディングや市民と連携したオープンサイエンスへの試みも紹介しつつ,国内外での高エネルギー大気物理学の潮流と我々の学際的な挑戦を紹介したい.

  • 武藤 恭之, 大西 利和, 河野 孝太郎
    原稿種別: 交流
    2019 年 74 巻 4 号 p. 201-209
    発行日: 2019/04/05
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル 認証あり

    南米チリのアタカマ高地に建設されたALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)は,波長が約3 mmから0.3 mmまでの電波(ミリ波・サブミリ波)を捉える世界最大の電波干渉計である.この望遠鏡は,これまでにない空間解像度・イメージング能力・感度を併せ持ち,宇宙における様々な現象について,革新的なデータを提供すると期待されている.ALMAは日本を含む東アジア・北米・欧州の三地域の協力によって建設・運用がされており,天文の分野としては初の大規模国際協力プロジェクトでもある.

    ALMAは,66台のアンテナから成る電波干渉計である.その建設途中であった2011年から「初期観測運用」と呼ばれるサイエンス観測が開始された.当初は16台のアンテナによる観測から始まったが,それでもなお,既存の望遠鏡を遥かに凌ぐ感度を有し,宇宙物理学の様々な分野において,価値あるデータを多数得ることに成功した.2014年6月には全てのアンテナが揃い,本格運用の段階に入りつつある.

    ALMAによって得られた成果は多岐にわたるが,ここでは,「星形成」をキーワードにその一部を紹介する.

    まず,ALMAにより,赤外線銀河背景放射をほぼ100%点源に分解することに初めて成功した.赤外線銀河背景放射は,過去の宇宙における天体形成史のうち,ダストに隠された部分の積分であると考えられており,その担い手を特定していく上で大きな前進をもたらした.また,宇宙再電離期の銀河において,多量のダストや電離した酸素の検出に成功し,宇宙最初期の重元素生成シナリオに対して新たな挑戦を突き付けている.

    また,ALMAは,現在の宇宙における星形成過程の研究にも新しい展開をもたらしている.

    第一に,これまで謎に包まれた部分の多かった,太陽の数10倍程度の質量を持つ「大質量星」について,その形成現場を直接観測して温度・速度などの基本的な物理量の情報を得ることが可能になった.その結果,星間空間における濃いガス塊の衝突が,大質量星の形成メカニズムとして重要である可能性が示唆される.

    第二に,小質量星の形成においても,まさに星が生まれつつあるガス雲に,複雑な構造が存在することを明らかにした.この構造の解析から,例えば,激しい力学過程の中で多重星の系が生まれるというような星形成の描像を,観測に基づいて直接描いていくことができるようになった.

    さらに,ALMAは,若い星の周囲の原始惑星系円盤を,これまでにない空間解像度で観測することに成功している.その結果,細いリング状の構造や三日月状の構造など,これまでに想定をしていなかったような豊かな構造が円盤に存在していることが分かってきた.このような構造が,惑星形成や円盤の物理とどのように関係しているのか,活発な議論がなされている.

    以上のように,ALMAはこれまでの観測で,宇宙物理学の様々な分野において革新的なデータをもたらし,これまでの常識を覆すに足る観測を多く出してきている.今後も,星形成に関係した分野のみならず,我々の考える宇宙の姿が大きく変わっていくかもしれない.その進展が大いに期待されるところである.

最近の研究から
  • 岡本 隆一, 小貫 明
    原稿種別: 最近の研究から
    2019 年 74 巻 4 号 p. 210-214
    発行日: 2019/04/05
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル 認証あり

    水溶液における溶質添加効果は古くから研究されてきた.単純な分子構造を持った溶質は疎水性のものと親水性のものに分類される.酸素分子,メタン分子などの小さな分子は比較的弱く疎水的であり水に僅かに溶ける.C60やC8H18O(オクタノール)のような大きい分子は周囲の水の水素結合を変形するため強く疎水的になり水には殆ど溶けない.一方NaやClのような小さなイオンは周囲の水双極子を配向させるため強く親水的になる.タンパク質や界面活性剤などの複雑な分子は,疎水部分(疎水基)と親水部分(親水基)から構成される.そのため水との相互作用は拮抗的かつ集団的であり,凝集・相分離・ミセル形成などの興味ある現象が出現する.

    疎水相互作用の引き起こす現象の事例としてまず1つは,水中の疎水性固体表面に形成される数十–数百nmサイズの微小バブルが挙げられる.ここでは水に溶解している酸素や窒素などが壁へ追い出されている.また疎水性ガスを水に混入し攪拌するとバルクにナノバブル(またはマイクロバブル)が生成され塩の添加でほぼ安定となる.この現象は工学・医学などで応用されているが,安定性の原因(=疎水相互作用)については殆ど意識されていない.またさらなる現象として水にヒドロトロープ(hydrotrope)を加えた場合の特異な効果も際立っている.ヒドロトロープは低分子アルコール(エタノールなど)を代表例とする小さいながら疎水基と親水基を持つ低分子共溶媒の総称である.水+ヒドロトロープ混合溶媒では濃度揺らぎが亢進する.ここに疎水性溶質が僅かでもあれば組成に応じてマクロな相分離とともに102–103 nmサイズのマイクロエマルジョンが生じる.後者に起因する白濁現象は,蒸留酒Ouzo(強疎水性アニスで香りをつけたエタノール)に水を注ぐと観測される.

    このような溶液の相転移を理解する上で重要な量として,第一に溶質分子の溶媒への溶けやすさを表す溶媒和化学ポテンシャルがある.これは,純溶媒に溶質分子1個を入れた時の自由エネルギー変化のことであり,溶媒分子と溶質分子,そして溶媒分子同士の相互作用を反映している.加えて重要な量として,溶質による浸透圧を溶質密度で展開したときの2次の係数,浸透第2ビリアル係数が挙げられる.これは溶媒中における(溶媒効果を繰り込んだ)溶質分子間相互作用を特徴づける.

    我々はこれらの溶液の振る舞いを記述するために,まず2成分溶媒+溶質の3成分系における浸透第2ビリアル係数の新しい表式を導出した.この量は溶質誘起不安定性が起こる溶質濃度の下限と関係づけられる.これらは純粋に熱力学的な表式である.そこでMansoori-Carnahan-Starling-Leland(MCSL)モデルを用いて,水–低分子アルコールのように全組成で混合するような溶媒を想定したパラメタ値を設定し,溶媒和化学ポテンシャルや浸透第2ビリアル係数などを具体的に計算した.その結果,浸透第2ビリアル係数が溶媒組成に関して極小を持つこと,そしてそれは溶媒組成揺らぎと溶質の溶媒和化学ポテンシャルの組成依存性が要因となっていることがわかった.以上の表式はミクロな理論,分子シミュレーションや実験との対応を考える際に重要なKirkwood-Buff積分とも関係づけられる.さらに,微小バブルの安定性において過飽和と疎水性溶質の存在が重要であることがわかった.加えて溶質誘起の液液相分離の相図をMCSLモデルを用いて計算し,実験で得られる水–低分子アルコール–疎水性溶質系で得られるマクロ相分離の様相と類似することが示された.

  • 吉田 滋
    原稿種別: 最近の研究から
    2019 年 74 巻 4 号 p. 215-221
    発行日: 2019/04/05
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル 認証あり

    2017年はまさにマルチメッセンジャー天文学元年ともいうべき年であった.LIGO実験による重力波観測と電磁波対応天体の同定に続いて,ニュートリノ観測でもブレークスルーが起きたのである.我々IceCube実験が検出した高エネルギー宇宙ニュートリノ事象の到来方向を世界中の望遠鏡・宇宙観測衛星が直ちに追観測して,初めて対応天体候補が同定された.宇宙線放射天体がどこにあるのかさえ不明であった状況を一変させたのである.

    ニュートリノは弱相互作用にしか関与しない素粒子である.ある種の不安定な粒子がより安定な粒子に崩壊するときに伴って放出される.ベータ崩壊が良い例だ.このような「特殊な」素粒子であるニュートリノがなぜ高エネルギー宇宙の理解に本質的な役割を果たし得るのであろうか.高エネルギー現象を引き起こす動力源のエネルギー輸送の一端は陽子や原子核から構成されるハドロン粒子,すなわち宇宙線が担っている.その最高エネルギーは1020 eVにも達するのだ.こうした極限の環境下では超高エネルギー陽子は周囲のガスや光と衝突し,π中間子やK中間子といった不安定粒子を生み出す.これらの中間子が電子やミューオンに崩壊する際にニュートリノも生成されるのだ.いわば宇宙には天然の加速器が存在し,極めて高いエネルギーに加速された陽子や原子核ビームが光子やガスの海に注入され素粒子反応を引き起こしている.素粒子実験で人工的に作り出している状況が宇宙ではより巨大なスケールで実現していると考えられている.

    この「宇宙加速器」の加速能力は桁違いである.地上最大の粒子加速器であるLHCは陽子を1013 eVまで加速する.しかし宇宙線の最大エネルギーは1020 eVだ.宇宙といえど,これほどの加速能力を簡単には実現できそうにない.この機構を理解する有力な手段は,加速器の「現場」で起きる粒子衝突から生じる産物を直接測定することだ.この産物の中でも,ニュートリノは電荷を持たず,したがって磁場によって軌道が曲げられることもなく,光も通過できないような厚い雲をも突き抜けて,地球まで直進してくる優れたメッセンジャーである.しかもニュートリノは中間子を生成できる宇宙線ハドロン粒子がなければ生まれない.ニュートリノ放射天体イコール宇宙線加速器でもあるのだ.

    2013年にIceCube実験は初めてこの高エネルギー宇宙ニュートリノを発見し,宇宙加速器の現場でニュートリノが作られていることを実証した.観測データから,加速器天体が満たすべき条件が明らかになっている.しかし具体的な候補天体同定にはこれまで至っていなかった.マルチメッセンジャー観測手法を2016年に導入し観測を継続した結果,2017年9月,ついに候補天体の同定に成功したのである.同定された天体TXS 0506+056はブレーザーと呼ばれる特殊な銀河で,中心にある巨大ブラックホールの重力を動力源とするプラズマのジェットが我々の銀河方向に吹き出している活動銀河核(AGN)である.高エネルギーγ線天体の多数を占め,高エネルギー宇宙の主役の一角を占める.検出した宇宙ニュートリノのエネルギーは約2.9×1014 eVであり,この天体で陽子が少なくとも1015 eV以上に加速されたことを物語る.電波からγ線にいたる広大なエネルギー帯で取得された電磁波観測データから1014 eVを超えるニュートリノ放射を説明するには,幾つかの自明でない仮説が必要なことが明らかになった.これを手がかりに宇宙加速器天体の駆動機構を理解するデータを積み上げることが次のステップである.

  • 荒川 智紀, 小林 研介
    原稿種別: 最近の研究から
    2019 年 74 巻 4 号 p. 222-227
    発行日: 2019/04/05
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル 認証あり

    物質中を電気が流れる,という現象は,私たちにとって,もっとも馴染み深い物理現象の一つである.それでは実際には,電流はどのように物質中を流れるのだろうか? もちろん,このような電流の正体は,電子などの電荷を持った粒子の流れである.しかしながら,通常,私たちは電流を連続量と考え,粒子流であることを意識しないことも多い.マクスウェルの方程式の中でも,電流は連続量である.

    それでは,電流が粒子流であることをどうやって実験的に検出すれば良いのだろうか? 100年ほど前の1918年,W.ショットキーは真空管内を流れる電流がどのような「ゆらぎ(雑音)」を持っているかを考察した.彼は電流ゆらぎのスペクトル密度が素電荷と電流の平均値の積の形で書けることを見出した.このゆらぎは,真空管の陰極から電子が一粒ずつランダムに放出されるという確率過程に起因するもので,ショット雑音と呼ばれる(「ショット」とは「粒」のことである).通常,電流は電荷の連続的な流れとして取り扱われる.しかし,そのゆらぎであるショット雑音には,電子の粒子性が直接にあらわれてくるのである.私たちは,このように,電流ゆらぎが電流とは異なる情報を与えることに注目し,研究を行ってきた.

    ショットキーの議論をもう一歩,進めてみよう.電子は電荷だけでなくスピンという自由度も持つ.したがって,電荷の離散性だけではなく,スピンの離散性も電流のゆらぎに影響を与えるのではないかと考えるのは自然である.近年,スピントロニクスの分野では,スピン角運動量の流れであるスピン流とそれにまつわる物理現象が盛んに研究されている.スピン流もショット雑音を示すのだろうか? スピン流のゆらぎについては,多数の理論的な提案があるものの,実験的な検証は行われてこなかった.

    最近,私たちは,磁性体/絶縁体/常磁性体からなるトンネル接合において,スピン流に伴うショット雑音(スピンショット雑音)の検出に成功した.

    具体的には,強磁性半導体(Ga, Mn)Asと非磁性半導体GaAsからなるトンネル接合に電圧とスピン蓄積を印加し,電流のゆらぎを測定した.電圧は電荷の流れを駆動し(図(a)),スピン蓄積はスピンの流れを駆動(図(b))する.それらの値を独立に制御し,系統的な実験を行うことで,スピン流によるショット雑音の検出に成功し,両者の比例関係を実証した.この結果は,トンネル過程において電荷とスピンが一体となってトンネルしていることの直接的な帰結である.また,メゾスコピック系における量子輸送理論がスピン流に適用可能であることを明確に示す結果でもある.

    これまで,ショット雑音は,メゾスコピック系の物理の発展に大きく貢献してきた.今回新たに実証されたスピンショット雑音は,スピン軌道相互作用や不純物によるスピン散乱,伝導電子と局在スピン間のスピンモーメントの輸送(スピントランスファー効果),トポロジカル絶縁体におけるカイラルエッジ状態の研究などにおいても,有用なプローブとなるものと期待される.

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