2021 年 76 巻 12 号 p. 773-777
量子ホール効果は,強磁場中の二次元電子系のホール抵抗が量子化する現象として広く知られており,半導体積層構造(Si MOS,AlGaAs/GaAsなど)や原子層薄膜(グラフェンなど)など,様々な物質系で観測されている.ランダウ量子化によって起こる整数量子ホール効果,クーロン相互作用によって起こる分数量子ホール効果がみられ,エニオン統計を示す分数電荷準粒子など,多彩な物性を示す.量子ホール状態は典型的な二次元トポロジカル絶縁体であり,試料内部(バルク)は絶縁化し,試料端(エッジ)に一次元の伝導チャネル(エッジチャネル)が形成される.磁場の向きによって決まる一方向の伝導を示すエッジチャネルによって,量子化ホール抵抗や縦抵抗の消失を明快に理解することができる.
量子ホール系における低エネルギー励起は,エッジプラズモンとよばれる電子の集団励起であり,量子ホール系の応答を理解するうえで非常に重要な役割をなす.試料端に複数の一次元チャネルが近接して存在している場合,結合プラズモンモードが現れ,特異な非平衡現象を引き起こすことが知られており,最近の話題の1つになっている.本研究では,近接するチャネル間に相互作用やトンネリングが存在する場合の結合モードに着目する.
チャネル間に短距離のクーロン相互作用のみがある場合には,朝永ラッティンジャー液体モデルに相当する.ランダウ占有率2の整数量子ホール系では,試料端にスピンがアップとダウンの2つのチャネルがあり,それらが結合した電荷モードとスピンモードが形成される(スピン電荷分離).この相互作用に支配された領域(相互作用支配領域)では,各モードの詳細はチャネルの相互作用の強さに依存しているため,純粋な(スピンのない)電荷モードと(電荷のない)スピンモードになるとは限らない.実際,最近の実験でも,非対称なモードの形成が確認されている.
もう1つの重要な結合モードの例は,ランダウ占有率2 / 3の分数量子ホール系で,対向する整数エッジチャネルと分数エッジチャネルの結合系が試料端に現れる.この場合,不純物などのディスオーダーに起因したトンネリングが支配的であり,電荷モードと中性モードが現れることが最近の実験でも確認されている.この散乱支配領域の特徴は,散乱(トンネル)によって中性モードが散逸的で短い寿命を示すのに対して,散乱を避けるかのように純粋な電荷モードが形成され安定で長い寿命を示すと期待されている.
上記の相互作用支配領域と散乱支配領域のモードは,異なる量子ホール系(整数/分数)で,異なる測定手法(高周波測定/ノイズ測定)を用いて研究されてきたため,統一的な理解には至っていなかった.本研究では,同一試料を用いて時間分解の波束測定を行い,整数(占有率2)および分数(占有率2 / 3)によらず,散乱支配領域で量子化された純粋な電荷モードを示すことを明らかにした.
このような結合プラズモンモードを理解するうえで,プラズモン散乱モデルが有効である.これは,静電容量と抵抗によって相互作用とトンネルを表し,エッジチャネルを伝搬する電荷密度の波(プラズマ振動モード)の散乱をモデル化するもので,現実の素子構造に対応したパラメータで系を記述できるとともに,標準的な場の理論のモデルとの対応をとることもできる.
これらの結合プラズモンモードの実験・解析により,分数量子ホール効果の階層構造や,エッジ再構成によって多チャンネル化したエッジ構造,さらに量子スピンホール効果のような二次元トポロジカル絶縁体に現れる非平衡現象を明らかにするツールとなると考えられる.