日本物理学会誌
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脳の数学的および力学系モデルの紹介
野口 広
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1971 年 26 巻 9 号 p. 653-658

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抄録

頭脳の思考過程の研究にトポロジーの手法を用いた研究を紹介する. こうした研究はトポロジーの分野では孤立したもので単なる物好きな研究ともみられるが, 特にThomのアイデアは微分トポロジーの発展の一つの方向を示すものと考えることもできる. 脳の数学的モデルは1959年に発表されたE.C.Zeeman1)のトポロジー的モデルがまず目につく. このモデルはホモロジー論を中心的な道具として用い我我の単眼による(色彩を除いた)視覚が2次元的であることを説明した. このZeemanのモデルは他の色彩感覚, 聴覚などの理論へも同様に応用できるが, とくに我我の認識あるいは思考の現象の解明にあたって重要な手掛りとなるものである. このZeemanの研究とは独立に1969年にR.Thom2)が力学系モデルを提案し, 広く生物学の形態形成, 増殖などの現象の説明にも用いた. このThomのモデルは頭脳に関してはZeemanの提案したモデルと本質的に同じであり, Thomは微分トポロジーを主な道具としている点に相違がある. Zeeman, Thomの先駆的研究を追って, 頭脳のトポロジー的研究が発展の時期を迎えることが期待される. 以下ZeemanとThomのモデルに沿って, その基本的な考え方を紹介する.

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