1981 年 36 巻 3 号 p. 226-235
生物種の遺伝的構造は確率的要因によって決まることが多い. 中でも分子進化や蛋白質多型現象の遺伝学的理論では確率過程の理論は極めて重要な役割を演じている. 遺伝学のこれらの分野で要求される数学的モデルの多くは次元数の大きい空間の過程であること, 拡散項が非線形でしかも境界に特異点をもつことなどから, きれいな型で解を求めるのは不可能である. 一方, 伊藤型の確率積分を用いて数値的にシミュレーションすることは, 最近のコンピューターの進歩と相俟って容易になった. 今後一層必要となる数学的モデルの解析において確率積分はますます重要な方法となるであろう. このあたりの事情と問題点を幾つか紹介する.