日本物理学会誌
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液晶におけるパターン形成
甲斐 昌一
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1996 年 51 巻 9 号 p. 645-653

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抄録

100μm程度の液晶の薄い層に電圧を印加すると, ある閾値電圧で液晶層内に対流が発生する. これは電気流体力学的対流(EHC)と呼ばれ, 非平衡非線形現象の一つである. そのパターン形成現象は, 液晶の異方性を反映して驚くほど多彩で, 振動化学反応系や熱対流現象で観測されるロールパターン, スパイラル, ターゲット, カオスなど, ほとんどのパターン形成現象を包含していて, あたかもパターンの博物館の感がある. ところが, このような複雑現象では, 乱流のような強い散逸と非線形を示す領域ではもちろんのこと, 対流発生点に比較的近い弱非線形の領域におけるダイナミックスでさえも, まだ完全には理解されていない. それにもかかわらず, 液晶系に見られるパターン形成現象は, 直観的なイメージをあたえてくれることが多く, また現象と数理を詳しく比較できる理想的な対象であると思われる. ここでは, EHCを中心として液晶での多様なパターン形成現象の紹介とその物理学としての普遍性と重要性について述べる.

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