ケルヴィン卿の歴史的講演に初登場した古典ビリアードから,ナノテクノロジーにより出現した量子ビリアードの最前線までを簡単にレヴューする.考察の主な対象は,ビリアード壁との衝突を繰り返す電子のカオス運動である.ニュートンカ学に従う粒子と異なり,電子は干渉,回折などの量子効果を示す.その結果現れてくるカオスの量子論的兆候を量子カオスと呼ぶ.ここでは,電子のドブロイ波長がビリアードの特徴的長さ(サブミクロンスケール)より十分小さい場合,つまり,半古典領域の電子の量子カオスを取り上げる.本稿では非線形動力学,統計力学との関係で将来性のある問題(軌道分岐,周期倍加現象,アーノルド拡散とそれらの半古典理論)をわかりやすく解説する.最後に,量子カオスの将来(未来?)に言及する.