異文化の諸相
Online ISSN : 2436-9993
Print ISSN : 1346-0439
知の獲得と語りのあて先
――Kazuo Ishiguro のNever Let Me Goにおけるその手続き
日中 鎮朗
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2019 年 39 巻 1 号 p. 31-45

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抄録

Kazuo Ishiguro(1954-)の小説『わたしを離さないで』Never Let Me Go(2005)の物語構成上の特徴はキャシーによる一人称の語りである。一人称の語りは、通常、すでにすべての出来事が終わり、その細部を知った後での回想であるゆえに、回想の対象に対し、感情的あるいは情緒的な位相で物語を支配するだけではなく、物語世界内での全知ゆえの揺るぎない視点を確立し、それに基づいた一定の見方で細部を解釈し、自分なりの結論やパースペクティヴをもって出来事に対峙し、再構成するため、思弁的な(独語 spekulativ)な位相での支配もする。しかし、キャシーの語りは譲歩、反転、否定、事象の全体の無意味化、曖昧化といった揺らぎの構造を示す1。本論考はこうした揺らぐ語りの技法自体が語り手キャシーの戦略であることを示し、それを分析するとともに、それが小説に対して持つ意味を考察することを目的とする。

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© 2019 日本英語文化学会
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