抄録
本論文の目的は,実践性の観点から,農業経営分析の改善を試みることである.
農業経営分析は,農業経営の改善に直接役立てることのほか,普及事業などの指導機関の課題決定や,試験研究機関で開発した技術の評価などの利用場面がある.しかし,過去,様々な農業経営分析手法が開発されてきたにもかかわらず,それらの手法を用いて経営改善に取り組んだり,指導課題を決定したという事例はそれほど多いとはいえない.また,技術開発の場面では,経営的評価を経て実用化された技術であっても全く普及しないものもある.それは,農業経営分析が現場の要求に応えられていないためであると考えられる.現場の要求とは,その経営にとって何が基本的な問題かを摘出する「問題発見」の機能と,その問題を解決するための「具体的改善策提示」の機能である.
そこで,その点に関して従来行われてきた農業經営分析を見ると,①他の経営または標準との比較から,問題点を発見するが,具体的な改善策提示には至らない,②経済学の視点から,技術進歩の程度および方向,技術水準の高低などの構造を明らかにし,問題発見をするが,改善策は抽象的である,③改善策は具体的に提示できるものの,専ら経営計画の作成に特化するため,改善効果が保証されないなど,「問題発見」,「具体的改善策提示」のいずれかに問題があった.そのため,手法そのものは数多く開発されてきたにもかかわらず,農業現場や普及事業,試験研究に十分に生かされているとはいいがたい状態にある.農業経営分析は,問題発見と構造的把握,具体的改善策の構築とその効果予測ができなければ実践的には大きな意味は持たない.本研究では,以上の反省にたち,これらの条件を満たす農業経営分析を構築することを目指すものである.そのために,まず,次節において,経営の目標•目的と経営改善の意味について考察し,その後,従来行われてきた農業経営分析に関する研究をレビューすることで,既往の研究の問題点と課題を明らかにする.