Print ISSN : 0016-450X
癌組織における lipid peroxide の形成と燐脂質
大西 孝之
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1958 年 49 巻 4 号 p. 233-248

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抄録

1. 白ネズミの正常組織を脂質分劃と, 脂質を抽出したあとの残渣分劃との二つにわけ, そのおのおのについて lipid peroxide の形成をしらべた。これらの分劃は単独では lipid peroxide を形成しないが, 二つをくみあわせると lipid peroxide の形成がみられる。
2. 脂質をさらにいろいろの分劃にわけて peroxide の形成をしらべたところ, 燐脂質がperoxide をつくることがわかった。
3. 透析した残渣分劃と脂質分劃とのくみあわせでは lipid peroxide の形成がみられないから, lipid peroxide の形成比は透析性の補助因子が必要である。
4. 鉄は単独で, 組織または脂質分劃にはたらいて lipid peroxide の形成を促進するが, 亜鉛はEDTAで処理した組織の場合だけに効力がある。したがって正常組織における lipid peroxide の形成には, 燐脂質のほかに, 透析性の補助因子と亜鉛とが必要である。
5. 癌組織の脂質分劃に正常組織の残渣分劃を加えても lipid peroxide が形成されない。
6. 癌組織で lipid peroxide の形成のみられないのは, 癌組織に antioxidant があるがらではない。
7. 癌組織では燐脂質が変化し, そのうえ細胞構造と亜鉛との結合がきわめて強いために lipid peroxide の形成がみられないものとおもわれる。
8. 癌組織では, ある種の燐脂質が完全に飽和化されて質的にかわってしまっているか, 量的に激減しているかのいずれかであると考えられる。

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