第一六十二歳ノ男子ニ發生セル直膓膠樣癌ニシテ其周園組織ニ於ケル浸潤性増殖及膓骨窩腺後腹腺ニ亘レル淋巴腺轉移以外脾臟ニ於テ旺盛ナル轉移及肝臟ニ於テ多數ノ散在性毛細管癌栓塞ヲ示シタル者ナリ、
第二脾及肝ニ於ケル轉移ハ血行性ニシテ特種ノ徑路ヲ採レル者ナリ此以外ニ於テハ肺骨髓其他ノ臟器ニ肉眼的及組織的癌轉移ヲ證明スル能ハズ、
第三脾轉移ハ大循環系ニ據ル、其徑路ハ恐ラク、後腹腺-胸管左鎖骨下靜脈-右心-肺-左心-大動脈-脾動脈ナルベシ、肝ニ於ケル轉移モ亦恐ラク、同樣ナルベシ、
第四脾轉移ハ脾髓中ニ瀰蔓性ニ増殖シ又屡々淋巴濾胞内ニ入ル然レトモ結節ヲ形成セズ此種ノ轉移像ハ極メテ稀有ナリ、
第五癌細胞ハ何レノ部分ニ於テモ特有ナル指輪状ヲ呈ス其原形質内ニ存スル多量ノ粘液反應ヲ示ス物質ハ細顆粒ヲ形成スコハ恐ラク人工的産物ナルベシ、
第六本例ニ於テ肺ニ癌組織ヲ見ルヲ得ザリシハ注意スベキコトニシテコハ本例癌ガ肺ニ於テ發育スルニ適セザリシコト及癌細胞ガ肺毛細血管ヲ通過シ得タルコトヲ考ヘザレバ説明シ得ザルコトナリ此等ノ現象ハ腫瘍其他ノ物質ノ肺毛細管栓塞ノ塲合ニ於ケル經驗ニ徴シテ有リ得ベキコトナリ、
第七大循環ニ入ル機會ヲ得タル惡性腫瘍成分ハ到達臟器組織ノ如何ニヨリテ轉移トシテ増殖シ或ハ滅亡スルハ人ノ知ル處ナリ、然レトモ本例ノ如ク脾臟ニ於テノミ此ノ如キ旺盛ナル轉移ヲ形成セルハ稀有ノ事ニシテ而モ脾ト生理的官能ノ近キ且惡性腫瘍ノ血行轉移ニ際シテ屡好母地タル骨髓ニ於テ轉移發生ヲ見ザリシハ甚ダ興味アル事實ニシテ腫瘍ガ其發生ニ於テノミナラズ其増殖ニ於テモ亦要約ノ甚單純ナラザルヲ知ルニ足ルベシ、
