2023 年 34 巻 p. 83-102
スペイン語の音素配列規則は音節頭に /tr-/, /fr-/ のような子音連続を許容し、調音上の必要から子音連続を成す2子音の間には挿入母音と呼ばれる母音的要素が挿入される。一方で、これらの子音連続は日本語の音素配列規則に違反しており、スペイン語を学習する日本語母語話者は、日本語の音素配列規則にしたがって2子音の間に完全な母音を挿入する傾向がある。本研究の目的は、(1) スペイン語母語話者が挿入する母音的要素の性質と日本人学習者のそれとを比較し、(2) 日本人学習者の挿入母音の性質が音声コミュニケーションの妨げになるか否かを観察することである。日本人学習者20名と半島スペイン語母語話者2名の発音を観察した結果、日本人のほうが母語話者よりも長くより明確な音質の母音を挿入する傾向があることがわかった。スペイン語母語話者50名が参加した知覚実験で参加者に様々な発音を評価してもらったところ、挿入母音が短く中立的音質であるほど、その発音は高い評価を受けた。これらの結果は学習者たちにスペイン語を「音節ごとに」発音するよう指導することの必要性を示唆しており、その目的のためには歌を使用することが有用であり得ると思われる。